愛してるって言って




 残業仕事の最中は、やはりどうしても疲れてしまう。
「つ…っかれたー…」
「同じく」
 強行犯係と盗犯係はそれぞれ残業にかかっていた。今日はなんでもない一日だった。
 ただし、昼までは。
 一体何の因果か、昼過ぎからは細かい万引き、スリなどがあちこちで多発。一方では昼間からケンカなどが多発した。しかしながら事件はそれほど大きくなく、すべて無事解決した。が、一日で溜まってしまった書類の束ばかりは地道にこなすしか道がなかった。しかも今まで溜めてしまっていたそろそろ出さねばならない報告書も残っている。
「体動かしたい」
「俺も」
「目ぇ痛い」
「……俺も」
 目の前に並んでいる書類を見ているとさらに疲れが増すような気がした。
「もういい、ちょっと休憩しまーす…」
「………俺も」
 ふらふらしながら、青島とすみれは刑事課を出て喫煙室へ行く。刑事課にはもう当直の者しか残っていない。しっかりと書類を提出し終えていた面々はとうに帰った。
「あーあ、やっぱり青島くんは疫病神だわ」
「何で俺?」
「だって、あたしが報告書溜めちゃったのは青島くんのせいよ。何回助っ人でそっちに駆り出されたと思ってんの?」
「事件が起きたのは俺のせいじゃないでしょー」
「もう似たようなもんよ。おかげで残業。下手したら徹夜だわよ。どう責任とってくれるわけ?」
「責任ねえ」
 青島はタバコを口にくわえ、火をつける。
「真剣味がないのよねー青島くんは」
「じゃあ責任ってどうして欲しいの」
 すみれはベンチの低い背もたれに寄りかかる。上半身が零れそうだ。
「それは自分で考えて?」
「すみれさんって結構横暴だよね」
「何か言いマシタ?」
 その声を聞くだけで、背筋に悪寒が走りぬけた。
「……いいえ何も」
 恐ろしいものを感じ取り、青島はただちに返事をする。
「よろしい。ねえ」
「何?」
「髪、触らせて。それでチャラにしてあげる、責任」
「は?」
「あたしもちょっとは癒されたいの」
 そう言ったまま、すみれは何も言わず、青島の髪を一房手に取った。
「柔らかい」
「そう?」
「うん、けどサラサラ感はあんまりないわね」
「ひでえなあ」
「青島くんがサラサラだったら気持ち悪いわ」
「…………」
 思ったよりも柔らかい髪。昼間はきっと走り回っていたのだろう。少しだけ汗のにおい。
「それでこれは何?」
「ペットヒーリング」
「は?」
「動物とかに触って癒されるんだって。あたしも癒しが欲しいのよ」
「……はあ」
 じっとしててね。
 そう言われ、さすがにこの手を振り払うことはできない青島は、動くこともできずにじっとしている。
「楽しい?」
「わかんない」
「俺も癒されたいな」
「癒してあげようか?」
「すみれさんが?」
「そ」
 あとで財布の中身をどれだけ搾り取られるか分からない。さすがにそれは怖すぎる。
「いや、やっぱそれは」
「何よ、せっかくなにか言うこときいてやろうと思ったのに」
「や、だってさ」
 何か奢らなきゃいけないでしょ?
 その意図を察して、すみれは心の底から笑う。
「何言ってるの、そんなのどうせ奢らせるんだから同じよ同じ」
 ああ、やっぱり。青島くんのせいの一言からあやしいとは思っていた。
「で?何も希望がないなら肩もみくらいしかしてあげないわよ」
「あー……じゃあさ」
 声をひそめて、耳もとで小さなささやき。


「愛してるって言って」


 俺も愛が欲しいんだよ。ねえ。
「……バカじゃないの」
「うん」
 バカでもいいよ。
「真性のアホよ」
「うん」
 自分でも今はそう思う。
「………バカ」
 やっぱり言わなきゃよかったですか?
「愛してる」
 ペットヒーリングよりは、よっぽど役に立つ特効薬かと思うんです。



「愛してるって、言って」






 




 *POSTSCRIPT*
 あおいさんからのリクエストで、和み系の青すみ。
 ………和んでる?
 いやまあ和んで…るという事にしていただけたら幸い(爆)実はペットヒーリングとかよくわからないし聞きかじりのネタを使うようなマネして申し訳ないです。上手くリクエストに答えられたかどうかあやしいところなのですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
 あおいさん、2222ヒットありがとうございました!



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