例えば嵐のように




 ここにいるのは偶然か必然か。
 リザは考える。考えてもどうしようもないことはわかっていた。しかし考えずにはいられなかったのだ。
 そもそもここ――上司の家――に来たのは、彼の忘れ物を届けるためだった。家に上がったのはお礼をしたいと言われて半ば無理矢理であったし、用事ならば玄関先でとうに済んだ。
 そう、間違いなく最初は必然であったはずだ。『はず』というのはここまでの経緯すべてが彼の策略であった可能性も否定できない、とそのことを示している。
 偶然か必然か。
 その答えを求めるために自分は何度自問自答を繰り返すことだろう。そしてそれで結果が得られるはずも無い。水掛け論だ。
 ここまで来て無意味な反抗をするのはやめた。どうせ意味はない。
「それで、私はそろそろ帰ってもよろしいですか?」
「まだだ」
 すっぱりと言い切るは、この家の住人であるロイだ。彼を口で言い負かす自信はさすがになかった。彼は理論を行使する科学者、つまり錬金術師だ。
「大佐。私も暇ではないんです」
「そうなのかね?私の記憶が確かなら君は今日残業もなく帰宅、その後も家で一人夜を過ごす予定だと」
「一人じゃありませんよ」
 彼が他人の予定に詳しいことは今更だった。何度このようにして騙されかけたかわからない。これがすべてはったりだとも思わずに。
「・・・あぁ失礼。ブラックハヤテ号がいたな」
 他の男がどうこうと考える以前に、彼は即座に正しい答えを返してみせた。少しくらい狼狽すればいいものを。
「では大佐。私がここにいなければならない必要性と理由を。不当な拘束は訴訟の材料にもなるということを理解しておいでですか?」
「もちろんだ。君をいつまでも引き止めるのは私が君といたいから、とそれだけではいけないのかな?ホークアイ中尉」
「そうやって何人の女性をたらしこんできたんですか?」
「心外だな。君だけだよ」
「・・・・・・・・・」
「何かね」
「・・・・・・・・・大佐、今と同じことをこの私の目を見てもう一度仰ってください」
「・・・・・・いや、すまないがそれはちょっと・・・」
 ロイの額には冷や汗が浮かんでいる。あんなうすら寒いセリフをもう一度吐いたら大笑いしてやりたい。
「では今までのことは全部嘘と受け取ってかまいませんね」
「まさか」
 このくらいのフェイントには引っかからないか。リザは心の内で盛大な舌打ちをする。
「大佐」
「中尉、君が何を信用しなくとも、私は君と一緒にいたいんだよ」
 ああうすら寒い。
「大佐・・・」
 これでこの言葉の甘さに酔いしれているとでも思われたらどうしようか。恥ずかしくて気色悪くて死にそうになるかもしれない。しかし充分にあり得ることだ。何しろ相手はあのロイ・マスタング。
「中尉・・・」
 ああ絶対に勘違いしている。
 何だこの腰に回した手は。とりあえず触るだけなら我慢するから動かさないで欲しい。
 我慢の限界というものが喉元まで湧き上がっている。
 ホルスターから銃を取り出したいけれど、いつの間にか両手は押さえ込まれてしまっている。計算外だ。このままでは抵抗すらできない。流れ流されて気づいたら朝でしたなんてことになったらまた明日の業務に支障が出ることは明白だ。
 ここまで来て仕事のことばかり考える自分に苦笑する。
 流されてしまおうか、思わないでもない。
 それができない理由はただ一つ。
 ロイの天狗になりすぎた鼻っ柱を思いっきり折ってやりたい、それだけだ。
 手が使えないなら足がある。瞬間的にそう思いついた自分を褒めてやりたい。
「大佐」
 リザは息がかかるほどに近づいてしまった唇をゆっくりと動かす。
 彼は一度その目を見据えて――
「うおぅっ!」
 自らの膝に突っ伏した。
 彼の足の上には見事なまでにリザの足が乗っている。彼女は彼の足先を踵で踏んだのだ。しかも思い切り。
「き・・・君は何を・・・!」
 壮絶な痛みに顔をしかめつつも、ロイは声を引き絞る。
「正当防衛です」
 きっぱりと言い切ると、リザは立ち上がる。
「では大佐、明日も遅刻しないでくださいね」
 お返しと言わんばかりに、にっこりと微笑むことも忘れずに。
 ロイはそんな彼女を見上げ、絶句するしかなかった。


 例えば嵐のように、一時的な対抗心が芽生えた。
 ただ、それだけ。



 




 *POSTSCRIPT*
 はい、52000hitのしのさんからのリクエストで「ロイアイで大佐の家での攻防」
 多分ここまで読んでくださった方はわかると思うんですけども、今回ばかりはシャレになりません。やばいです。なんつーかもうどうしようもなくらい大佐がキモい。
 やばいですよ!いやなんつーかほんとにあたしロイアイ好きかってくらいキモいよ!でもキモいのが大佐の売りだと信じて疑わないんですけどもね。カッコイイ大佐ってどうやったら書けるんでしょうかね。だってキモいじゃんよー。
 っつか献上品にキモいキモい連呼するの止めようぜ自分。

 では、52000hitありがとうございました!



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