今なおパーティでにぎわっている屋敷の門前に、一台の黒い車が止まっていた。運転手の顔を確認して、リザは迷わずそれに乗り込む。 「ご苦労。収穫は?」 リザが乗り込んだ後部座席に悠々と座っていた彼女の上官、ロイ・マスタング大佐はにこやかに尋ねる。 「さっぱりです。おかしな動きも無し」 「そこまで余裕だと逆に怪しいな。ハボック少尉、お前の方はどうだった?」 運転席のハボックはようやっととばかりに煙草に火をつける。 「運転手連中は何も知らないみたいです。使用人は屋敷のメイドとか当たった方がいいんじゃないですか?」 「もう少しうまく聞き出せ」 「無茶言わないでくださいよ」 ハボックは車を発進させる。こんなところいつまでもいるようなところじゃない。絶対に。 「数日中に動くだろうというのは確かなんだがな」 ロイは髪をぐしゃりと掻き乱す。 「じゃあ自分で行けばよかったじゃないですか」 「残業中の司令官はそんなことしてられないのよハボック少尉」 ロイが口を開くより先にリザが言い切った。 「第一、大佐が出るほどの事件とも思えないのですが。この件は迅速に解決すれば単なる強盗で片付きます」 溜め息をつきながら、これはロイに。 「君が出張っているんだ。私が出ないわけにもいかんだろう」 「…まったく…」 目立ちたがりはこんなとき厄介だ。 せっかくこの事件にかかりきりになる間、まともに仕事をしてもらおうと画策していたのがすべて潰されてしまった。どうせ口を出すなら執務室で大人しくしていればいいのだ。 「しかし収穫がゼロとは参ったな」 「まったくのゼロとも言えません。指名手配中の強盗犯と見られる人物を発見。シュミット卿とは不自然なまでに接触無しですが、名目上は当主のご友人ということでした」 「指名手配犯と友情を交わすとはなかなかやるじゃないか、シュミット卿も」 「それから、急に決まったという夜会に招待されました。明日の夜だそうです」 今日のようにロイのプライベートな繋がりを駆使して紛れ込むよりはよほど安全な策だった。 「明日?」 「ええ。連日にしても少々おかしいですね」 「何かありますと言わんばかりだな。今夜は目くらましだったと思うか?」 「情報漏洩の可能性も否定できません」 「それヤバイんじゃないですか中尉」 ハンドルを握ったハボックが声をかける。 「ここで賭けなかったら進まないわ」 「いやそれもそうですけど」 「どちらにしろ」 ロイは暗い車内でリザを見下ろす。上から下までじっくりと。 「……」 「何ですか?」 「…いや。君は一人でパーティに参加したんだったな」 「はい。そうですけど」 「……明日も一人で?」 「ええ。そのつもりです」 リザは髪をかきあげて言う。この先、ロイの言葉が目に見えるようだった。 「どうして明日の夜会に誘われたんだね?」 「…色々あったんです」 本当のことを素直に言うわけにはいかなかった。主に、精神的な理由で。 リザはロイがどういう人物かということをある程度分かっているつもりだった。彼の執着心と独占欲がことさらに強いということも。 そんな彼に当主の息子をたらしこんで(実際はあくまで話しかけられただけだけれど)招待してもらっただなどと正直に言ったりしたら―― その先はあまりに恐ろしかったので、報告の細部は誤魔化しつつ、リザは考えるのをやめた。
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*POSTSCRIPT* もうちょっと独占欲爆発な感じにしたかったといえばしたかったんですけども。 この後の会話は目に見えますので省略。いやね、そこがいいってのはわかるんですよわかるんですけど続けるにはとばさないと終わらないと思って。終わんないのは勘弁。だからここでちょっぴりサービス 「ならば次は私も行こう」 「何故ですか。まだまだ大佐がなさることはたくさんあるはずです」 「そんなものは誰かにやらせればいい」 「そんなわけにもいきません」 「どうして?」 「貴方の仕事です、マスタング大佐」 「君のその姿を見せられておあずけを食らうのはごめんだ」 「それはもっと綺麗に着飾ることのできるお嬢さん方にどうぞ」 「君でなければ嫌だ」 「そうですねー大佐他の子のはいつでも見れますもんねー」 「口を出すなハボック!」 「大佐。私は貴方専属の便利な女じゃないんです」 「わかっているさ。だからこうして口説いているんだろう」 「わかってません。大佐は自信過剰に過ぎるんです」 「おや、そうかな?」 「そうです…!どうせこの街の美女は私のものだくらいには思ってるんでしょう」 「……スケールが小さいな」 「は?」 「全世界の美女は私の虜なのだよ!」 リザがとてつもなく嫌そうな、げんなりとした表情になる。ここが暗い車の中で良かった。 ハボックはハンドルを思わず切ってしまった。街灯にぶつかりそうになったのをリザが同情の目で見ていたが、ハボックもリザに同情していた。大いに。 「下手な運転だな」 あんたのせいだよ。言いたいのをこらえてハボックはアクセルを踏んだ。 補足というかなんというか。全世界の美女は私の虜云々が言わせたかっただけだったり。 |
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