翌日もリザはパーティに顔を出した。行かずに済むならそれでも良かったが、問題は誰にどう紹介されるのか、だ。縁というものは馬鹿にできない。ハボック曰く「たらしこんだ」息子に上手いことを言って父親かその同業者あたりに紹介してもらえればそこから探りを入れることもできる。ただし問題は、そのレベルの人間になるとこちらの身分がバレるのではないか、ということだ。しかも今日もまた着飾って――一番楽しそうにしていた上司のことを思うと頭が痛い――堅苦しい思いをしなければならないと思うと面倒で仕方がなかった。しかし出来る限り化粧に気を使って髪形も変えて、変装に近いところまでしなければバレる可能性は更に高くなる。 「ああ、お待ちしていました!」 ペーターは玄関から待ち構えていた。リザを迎えるためである。 思わず顔をしかめた。今まで悶々と考え込んでいたからとっさのことに顔がついてこなかったのだ。 「…どうかなさいましたか?」 「いいえ、何も。お出迎え恐縮です」 「いいんですよそれくらい」 ではこちらへ―― このペーター氏の口が軽いことをとりあえずは祈ろう。 今回の事件の概要は、一言で言うなら強盗である。 ただし盗まれたものが問題だった。これが現金ならばまだ救いがあったものを、よりによって搬送中の銃火器だった。中央の錬金術師によって作られた最新式の爆薬や銃、車三台分がそっくり盗まれてしまった。搬送と警備にあたっていた軍人は全員殉職、その事件が起こったのはイーストシティの郊外だ。目と鼻の先でそんなことをしでかされる、それだけでも大問題である。 「シュミット卿がどうやって成り上がったのかを知っているか」 「はあ、成り上がるもクソも元々貴族だったんでしょう?」 「違う。元は商人だ。先代の頃に大成功を収めて爵位を買った」 「…何か因縁でも?」 「武器商人だ。イシュバールでも大活躍だったな。お前一応は現場組だろう。覚えておけそれくらい」 「商人までは興味ないですよ!」 正装のロイは運転手のハボックに見えるように(わざわざバックミラー越しに)偉そうにふんぞり返る。とんでもない上司である。 「ここのパーティに目をつけたのはそういう理由ですか」 「もしはずれでも収穫はたっぷりありそうだからな。ついでだ」 「ついででトップがしゃしゃり出るもんじゃないですよ」 「私は現場第一主義でね」 なんだかんだで結局不器用な男だ。 「でも大佐がしゃしゃり出たせいで中尉が潜入する羽目になったんでしょう?」 ロイはぐっと息を飲む。 「それで不機嫌になってちゃ元も子もな――車内は火気厳禁ですよ大佐ぁ!」 「やかましい!」 発火布が火を噴くのはもう少し先だ。 「今日のドレスもお似合いですね」 ここに来るまで地味だ地味だと言われ続けた深緑色のベロアのドレスは、ここに来てやっと評価されることとなった。 「そうですか?ありがとうございます」 「深い色が似合いますね。蜜を溶かしたような髪が映えて非常に美しい」 最初にロイが選んだものをすべて却下して、じゃあせめてこれでと泣きつかれたのはこういう効果を期待してだったのだろうか。意外と考えてたんだわ、と思い直してしまった。 「ところで、今日のパーティの趣旨は?昨日とはお客様がだいぶ違うようですけれど――」 「ああ、昨日のは社交界、今日は父の仕事関係と思ってくださればいいですよ」 「お仕事?私なんかが居てもいいのですか?」 「ええ、もちろん。私が私的にお客様を招待しただけのことですから」 やはりどこかこの物腰がロイに似ている。リザはふ、と笑うと気を引き締めた。今がチャンスだ。 →NEXT |
*POSTSCRIPT* きっとほんとは最初から打ち合わせとか全部終わらせてるに違いないのに何でこんなところでこんな話してるんでしょうかハボと大佐。 |
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