センチメンタリズム 送られてきたのは黒いシンプルなドレスだった。 「・・・・・・これは?」 「君宛に。プレゼントだろう」 ふざけた贈り物が職場に届いたのは初めてだった。そしてまず確認するのは、差出人。 「・・・差出人はロイ・マスタング」 「ああばれてしまったか」 ばれるも何も、差出人の欄にしっかりと本名が記載されている。すべては故意。すべては彼の意思次第ということだ。 「大佐」 リザは怒りを孕んだ声音で呼びかける。 「それで、これはどういった用向きですか?」 「クソッタレなパーティに付き合ってくれ。ドレスはそのための先行投資だ」 「パーティ?」 ロイは引き出しの中から“invitation”と金字で施されたカードを取り出した。 「中央への移動の際にいただいてね。女性同伴だそうだ」 「そういうことはもっとその手の状況に慣れた方がよろしいのでは?お知り合いにたくさんいらっしゃるでしょう?」 盛大に嫌味をこめてリザは言う。はっきり言って行きたくない。 「最初は私もそう思ったがね、そうはいかなくなった」 「何故・・・」 「このパーティの主催は少将だ。無下に断るわけにもいかなければ一般人を巻き込むわけにもいかない。これで理解していただけたかね?ホークアイ中尉殿」 それだけの正当な理由があっては、リザも断るわけにはいかない。手元のドレスとロイの手にするカードを交互に見やり、覚悟を決めた。 「・・・わかりました」 目立ちすぎている、と思った。 しかもこの会場は比較的年配のジジババばかりときている。若い自分達が珍しいのもあれば、彼女が目立ちすぎている、というのもあるだろう。 なめらかな肩のラインと金色に輝く髪に漆黒がよく映える。自分でさえ目を疑ったほどだ。そして今は、他の女性に目を向ける気にもなれず、彼女を他の誰かに口説かれる心配もしないで済むように、さりげなく二人でいようと努めている。 いつもならば考えられないほど、自分達は目立ちすぎている。 「もうそろそろ止めてもよろしいのでは?」 口を開いたのはリザだった。手にしたグラスを傾ける。 「何をかね」 ロイはまさしく真剣に尋ねる。 「そのいやらしい笑みです」 そして、リザもまた真剣に即座に返した。 「いやまさか君が本当にやってくれるとは思わなくてね」 「しょうがないでしょう。これも仕事の一環です。もうやりませんからね」 仕事ねえ。 ロイは言われた通りに笑いを止めるため口元を覆った。しかしながらこのにやけは止まることを知らない。 「それは残念だ。しかしプライベートでドレスを着る機会はまだあるだろう?」 「・・・何ですか」 不穏な空気を感じ取ったのか、リザは訝しげに尋ねる。 「結婚式」 一瞬だけ息が止まった。そのセリフをこの口が言うとは思ってもみなかったのだ。 「それならいっそ独身を貫きますよ」 「・・・・・・そんなに嫌なのかね」 「ええとても」 ロイは溜息を吐く。にやけ笑いがようやく消えた。 「面白味が無いな」 「貴方に楽しみを与えても仕方ないでしょう」 まったくだ、と思ってしまう自分が嫌になる。ここでもう少しだけでも、都合のいいように受けとめることが出来たなら。 「君の夫になる人物は本当に幸せ者だな」 確実に尻に敷かれる。 予測ではない、確信だ。 「先ほどの話を聞いてらっしゃいましたか?私は独身主義です」 「・・・・・・私のために?」 少しおどけて聞いてみる。ほんの冗談のつもりだった。 「そうですよ」 ほんの、冗談のつもりだった。 こういうことをよくも恥ずかしげもなく言ってくれるから、どうしたって彼女にはかなわない。 あと残り三十分。 このうざったいパーティが幕を閉じたら、今度こそ本当のデートに誘おう。 |
*POSTSCRIPT* 42000hit獲得のなおさんからのリクエスト。ドレス姿の中尉を大佐がエスコート。 なんだか夢と希望に満ち溢れたリクエストでどきどきです。なんかもうあたしは汚れですみませんなくらいですよ・・・ 途中からなんだか結婚観に話が変わりそうになってしまいあわてて直したりしましたがこんなものでよければどうぞもらってやってください!! では、42000hitありがとうございました! |
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