claustrophobia いたく不愉快だった。 問題なのはとりあえずこの現状だ。 「よおマスタング大佐」 「・・・何か用かね鋼の」 鋼の錬金術師エドワード・エルリックがやってきた。もちろん彼の弟も一緒だ。この部屋まで入ってきたのは兄だけだが。それにしても終わることを知らないデスクワークの最中にわざわざ送り込んだのか、とロイは自らの補佐官を少々呪った。 「何だよその言い方」 「悪いが仕事中なんだ」 「受け付けはもっとマトモだったぜ?」 「彼らは実質的に君よりも階級が下だ。当然だろう」 ロイは溜息をついてペンを置く。どうせ彼らが来ているのだ。仕事が進むはずもない。きっと彼の優秀な補佐官はそれを見越していたはずだ。さらに、彼女がそういう行動に出る以上、これらの書類はそう切羽詰ったものでもないはずだ。 「それで、今日は何に」 「もちろん、情報!」 「私が無償で君に情報をくれてやる義理は本来ならないのだがね」 「貸しは色々とあると思うぜ焔の錬金術師。あんたの管轄内での騒ぎをいくつ解決してやったと・・・」 「どうせ自分で撒いた種の掃除だろう。忙しいな鋼の錬金術師」 エドワードは何も言い返せずに押し黙る。 「まあ今回は。一応色々と片付けてきたようだから多少の協力はしてやろう」 「その言い方すっげムカツク」 「まあ我慢したまえ。君が協力を要請してるのはこういう男なのだよ」 終始にやにやと笑いを絶やせなかったロイの一言に、エドワードは嘆息した。怒る気力もなくなるというものだ。 そのとき、唐突に扉がノックされた。 「入りたまえ」 ロイは誰が来るのか目星がついていたらしい。何もかもわかったような態度で促す。 「失礼します。お茶を・・・」 入ってきたのはお茶とお菓子を乗せた盆を携えたリザだった。 「あ、中尉」 「お久しぶりエドワードくん」 お茶をテーブルに置きながら――彼女はロイの執務机の上、その書類にまで気を配っていた。やっていない。まあ仕方ないとは思うが予想よりも枚数はかなり少ない。 「これもどうぞ」 リザはエドワードの前にお菓子を置く。 「私には」 「ありませんよ」 お菓子はお客さま用ですから。 「鋼のには菓子まで出して私には出さないとは・・・」 「大佐にもちゃんとお茶をお出ししたでしょう?」 お茶はちゃんと出した。しかしそれも客用のいい葉っぱを使ったものではなく普段と同じものだ。 「これは差別だぞ中尉!」 「お菓子とお茶くらいで差別だなんて言いださないでください」 「大佐どうしようもねえ大人だぞそれ」 バカにされている。ああバカにされている。 先ほどまでの大人の余裕がすべて水の泡だ。せっかく言い負かしたのに。 「じゃあまた帰りにね」 「ああ、うん」 帰り?帰りとは何だこんな子供相手に。 「帰りがどうしたんだね鋼の」 「いや中尉がさ、帰りでいいから寄ってくれって」 「ほお・・・」 「・・・・・・大佐?」 なんか目がヤバイ気がするんですけどー。とは思いつつもとてもではないが口に出せなかった。 「いやいや、何でもないさ。それで生体錬成の情報だったな」 これこそ不愉快だ。 裏切られた気分というのは少し違う。どちらかといえば独占欲か。独占欲とは厄介だ。自分でどうにか歯止めをすることがとてもではないができないのだから。 「大佐」 リザが執務室にやってきた。おそらく書類を確認するためだろう。 「大佐、終わりましたか?」 「大概は。君は私を働かせすぎだと思うのだがね」 「そのくらいで音をあげないでください。これから上に行くにつれ仕事の量は増えるんですから」 「そのたびに苦労するのは君だな」 「その通りです、大佐」 リザはできあがった書類をファイルに閉じる。手馴れた作業。 「鋼のとは何の話を?」 「ああ、エドワードくんとアルフォンスくんに、宿の紹介を。今回は軍の施設には泊まらないそうなので」 「ほお」 それほど思い悩むような内容であるわけがない、とは思っていた。確かにその通りだった。だからといって拍子抜けしただのは言ってられない。 「ホークアイ中尉」 「何でしょう」 「君、今夜の予定は」 「・・・・・・まだ、何も」 「丁度よかった。空けておいてくれ」 はい、とリザはか細い返事をした。 公私混同はごめんだ、と思った。だからこそ無理矢理にプライベートにもつれこませたのだ。それに彼女は気づいただろうか。 きっと今夜彼女を離しはしないだろう。どんな手を使っても、無理矢理に確実に。暗く狭い部屋に閉じ込めてでも離さないだろう。 こうでもしなければもう歯止めが利かなくなっている。おそらくもう末期なのであろう。 怖れているのは暗いところでも狭いところでも閉じ込められることでもなく、ただただ喪失だったのかもしれない。 そう思い立ったところで、ロイは考えるのを放棄した。 |
*POSTSCRIPT* 77777hit獲得の天乃 真琴さんのリクエストで、ロイアイ基本で、リザとエドが楽しそうにしているのをみて、やきもちを焼く(面白くないといった感じの)ロイ、でした。 お、お待たせしてしまいまして本当に申し訳ありません・・・! こ、こんなのでもよろしかったらもらってやってください・・・(汗) |
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