Cutie! まずは瞬きを一つ。 目の前に積み重なる書類の束は見ない振りをした。なんと精神衛生上よろしくない光景だろうか。 それが嫌で目を逸らすと、こちらは目が痛くなりそうな光景。彼女の髪はとても優しい色をしていて、瞬きする暇も惜しく思えて目が痛い。 ある部下の一人は彼女を『まぶしい人』と評した。まったくその通りだと思う。 またあるお節介な友人の評は『強すぎて弱い』だった。こちらの方がしっくりくるな、そんなことを考えながらとりあえず書類を凝視する。 「大佐」 瞬きをもう一度。今度は書類をじっくり見すぎた。内容は読んでいないのだが。 「・・・大佐」 「何かね中尉」 「話を聞いてください」 「私は今日真面目に仕事をしているんだが」 「その割には一枚も終えていらっしゃらないようですけど」 バレた。しかし元より隠すつもりはなかったから構わないが。 「君をずっと見ていたいと思ったんだよ」 リザは苦虫を噛み潰したような顔をする。心外だった。 「何かね」 「寒いこと言わないでください」 「君は失礼だな」 口説き文句の一つも言えないのはどうかと思う。 「そんなことより、エドワードくんとアルフォンスくんが来ています。その書類が一段落したら会ってください」 「強制かね」 「あら、会わないんですか?」 「――会うさ」 そのとき彼女がくすりと笑ってみせたのが少し癪だった。 エドワードはリザから「大佐のお説教をするからここで待っていて」と言われたからここにいるのだ。けしてこんな風にするためではない。なぜこの状況でアルフォンスは平然としていられるのか、それがどうにも理解できない。こんなにも、こんなにも自分は不満だというのに。 「なあアル」 「何だい兄さん」 「これ何だと思う?」 「電話でしょ」 そんなことは分かっている。それさえ分からないようなどうしようもない人間ではない。――残念ながら。 「どうすればいいと思う?」 「電話すれば?」 「何でだよ」 「だって中尉も言ってたじゃない。ウィンリィちゃんに電話でもしてみればって」 「なんで中尉がそんなこと言うんだよ・・・」 かれはすでに泣きそうだった。照れくささと気まずさで顔を真っ赤にしながら。 「中尉はウィンリィが待っててくれてること知ってるから」 「お前はいいよな・・・」 「何でさ?」 エドワードはここで返す言葉を知っているほど大人ではなかったし、正直にすべてを話せるほど子供でもなかった。 「なんでもない・・・」 「電話しないの兄さん?じゃあ僕が・・・」 アルフォンスはすでに受話器を手に持っていた。 エドワードは床にうずくまっていたのでそれに気づかなかった。そしてその言葉の意味も。 「まっ・・・ちょっと待てアルっ・・・!」 そう言った瞬間、電話はロックベル家に繋がっていた。 エドワードが反射的にアルフォンスから受話器を奪う。 『はい、こちらロックベル・・・』 「ウィンリィ!?」 しかもついつい叫んでしまった。このことにこそまさに赤面だ。 『エド?どうしたのまさかまたあたしの機械鎧壊したんじゃ・・・!』 「あー・・・違う違う今回はそうじゃない・・・」 『じゃあ何?珍しいじゃない用も無いのに電話なんて』 「いや・・・ちょっと色々あって」 『ふーん・・・アルは?』 「いるよここに」 アル! 受話器を奪われて廊下の隅っこで大きな体を丸めていたアルフォンスが呼ばれたことに気づいて駆け寄ってくる。 「ウィンリィが」 アルフォンスは受話器を受け取り、話し始めた。 受話器を託した途端、一気に力が抜けた。大きく溜息を吐くと―― 「彼女に電話かね?」 明らかによく知った成人男性の声が耳もとで聞こえた。 「うああっ!」 「ほう、耳が弱いとは意外だな」 「あ・・・あんた何でここにいるんだよ!中尉は!」 「私ともあろう者が執務室から抜け出すこともできないわけがないだろう」 「畜生逃げて来やがったな」 「まあそうとも言うな」 まったく性質が悪い。何故リザはこんな厄介でどうしようもないサボり魔の補佐官なぞをやっているのか、エドワードは思う。 「そしたら君が故郷の愛しい彼女に電話をしているじゃないか。これはおもしろいと思ってね」 「面白くない面白くないちっとも面白くねえよ!」 エドワードは半ば絶叫。しれっとしたロイはそれにもかまわず続ける。 「いやいや照れることはない。鋼のにもようやく春が来たと思えば祝福もしてやりたいくらいだよ」 「中尉にフラレ続けてる野郎が偉そうに」 それは何気ない一言だった。確かに見方によってはそう見えるのだ。 「・・・・・・今聞き捨てならんことを言ったな鋼の」 ロイの声がワントーン低くなる。目の色が変わった。 「は?本当のこと言っただけだろ」 「たかが電話の一本や二本でうろたえる子供に言われるセリフではないとは思うがね!」 「てめ・・・どこから見て・・・っ」 「『これ何だと思う?』から」 「全部じゃねえか!」 その場でうずくまりたい衝動に駆られる。なんて恥ずかしい所をよりによってこの男に見られてしまったのか。 「まあ悩みたまえ少年!悩み悩まれてからが恋愛というものだ。そうすればこの私のように好みの女の子とあれやこれやできるわけだ」 「てめえに言われたくねえよ好色オヤジ」 「子供に何を言われてもそう感じ入ることはなくてね。舌の使い方教えてやろうか?」 「いらんわ!!」 元々赤かった顔を更に赤くしてエドワードがロイにくってかかる。 「それにウィンリィは・・・っウィンリィはそんなの気にする奴じゃねえ!」 言ってしまってからふと気づく。そういえばアルはどうした? 「に・・・兄さん・・・」 嫌な予感がした。背筋から気配、というのが正しいかもしれない。 「電話繋がってるんだけど・・・」 とりあえず受話器をアルフォンスの手からむしりとると、丁度通話を切られた。 ロイはその彼の様子をにやにやと笑いながら見ていた。 「前途多難だな」 「・・・誰のせいだと思ってやがる」 「自分のせいだろう」 「てめえのせいだっ!」 エドワードはがばりと頭を上げる。 「大体なあ!」 「あ」 アルフォンスが素っ頓狂な声を上げる。 「あ?」 その、視線の先。 まぶしい人こと強すぎて弱い人ことロイの愛しの君、つまりリザ・ホークアイ中尉がそこにいた。 「大佐」 にっこりと素晴らしく綺麗な笑顔。それに一瞬そこにいた誰もが見惚れた。これから起こるであろう悲劇を察しながら。 後日、エドワードへウィンリィから電話があり、彼が延々文句を聞かされる羽目になったのは言うまでもない。 |
*POSTSCRIPT* はい終わった44444hitの獲得者鳴海さんからのリクエストで「エドウィンでロイアイを釣る!」 ・・・あんまり釣ってないよね・・・(死) あああすいませんすいません。しかも途中耳が弱いなどうたらと大佐がエドに言ってますけどロイエドじゃないです。 むしろ耳弱いの大佐だと思います。中尉に耳舐められてびくびくしてたら最高ですよね。 いやあ話が逸れた! では、鳴海さん44444hitありがとうございましたー! |
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