抱きしめる術を知らない




 手を伸ばせば彼女に触れることができるのに。
 けれどとてもそんなことはできなかった。彼女はつい先程までこの腕の中で快楽に――それとも痛みに?――顔を歪めていたというのに。終わった後、抱き締めることすら彼女は許さない。
 どうして、と問うたことがある。
 彼女は、今はまだそのときではありません、と一言返した。
 彼女がこうして背中を向けて眠るのは決意の証であるということを自分はよく知っていた。
 それでもただがむしゃらに、力の限りに彼女を抱き締めたいと思いのだ。彼女を傷つけてでも、とそう願ってやまない。
「…寝ないんですか?」
「寝るさ。君が寝たら」
 背中と会話しているようだった。
 さっきまでの紅潮した頬を覚えている。すがりつく腕もまだ感覚に新しい。はかなく消えてしまった彼女の熱も。
「こっちを向いてくれないか」
「どうして」
「背中と話してしるようで面白くない」
 まさにしぶしぶ、リザはこちらに顔を向ける。金色の蜜のような髪がシーツの上で跳ねる。
「大佐、早くおやすみにならないと明日の職務に響きます」
「自分は非番だと思って何気に気楽だな君は」
「そんなことありません」
「あるよ」
 こんなことを言い合っていたらずっと続いてしまう。彼は妥協を知らないから困るのだ。リザは思う。
「ここにいるのは苦痛かね?」
「でしたらここにはいません」
 やけに真剣な彼女がおかしかった。
「ずっとこうしていられたらいい」
「私は貴方の弱さまで請け負うことはできませんよ」
「わかってるさ。それでも望んでしまうのは罪だと思うかね中尉」
 望むのはずっと先にある理想。そしてそこにいるはずの自分と彼女だ。
「すべてが終わったら、私の家族にならないか?」
 もしかしたら、ずっとずっと叶わないかもしれないけれど。
 もしその時が来たら、もしその時まで生きていたら。
「大佐…」
 リザは呆然と、唇を震わせる。
「私たちに終わりはありえないんですよ」
 すべてが終わるのはどちらかが死んだときです。
「私はけして走るのをやめません」
 この先何があっても彼女は立ち止まらないだろう。その間は誰かに守られるという事態を恐れてしまうだろう。家庭に入ることで見逃すものを許すことなどできないのだろう。
「…君が哀れに思えてきたよ」
「お言葉ですが大佐、それは侮辱です」
「訂正、君は不器用だな。この上なく」
 今、この瞬間に彼女を抱き締められたら、と思った。
 けれど自分は、ただ抱き締めるということを知らないのだ。
 



 




 *POSTSCRIPT*
 あえなく振られました。
 あー・・・幸せ感とか欠片も出す気ないよー・・・だからさー、だからロイロイはもう告って振られてを繰り返してるくらいで丁度いいと思うんですよねー。
 お久しぶりな事後ですけども事後な感じがしないのはどうなの。  



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