冤罪の証明




「脱ぎたまえ」
 まったくもって面白みのない展開だが予想は簡単についた。そろそろ彼は黒い肌の女たちを陵辱することに飽きた。ただそれだけなのだ。戦場にのこのこついて来た慰安婦には手を出さないあたり商売女は嫌いなのかもしれない。潔癖め。そのくせ部下に手を出すことは躊躇わないのだから、まったく理解しがたい。
「私は慰安婦の代わりにするために連れて来られたのでしょうか」
「まさか。君は優秀な部下だよ。安心したまえ、君の功績はしっかり私が覚えているさ」
 何だその自分だけが知っていればいいような言い方は。それでは戦争が終わってからその立派(らしい)功績が彼のものになってしまってもわからないではないか。そんなことにも気づかないような馬鹿だと思われているのだろうか。それとも試されているのだろうか。それとも、女だからか。男に馬鹿にされる筋合いはない。
「さあ、もういいだろう。脱ぎたまえ」
「申し訳ありません」
「リザ・ホークアイ」
「できません」
 正確には、誰がそんなことをするものかこのクソッタレ。
「君はこの先どうしたいんだね?」
「私のなすべきことは戦場に出て戦うことですので。従軍慰安婦がいるでしょう」
「君がいいんだ、と言ったら?」
「謹んでお断りさせていただきます」
「君に冤罪でも軽くかぶせてしまいたいよ」
 唐突なその言葉に初めて背筋が凍った。
 リザは目を見開く。
「例えば、ロイ・マスタング少佐と仕事中の密会」
 睫毛が震えた。指先がひりひりする。
「それで」
「他にもあるさ。いくらでも証拠は出る」
 リザは息を大きく吸い込んだ。そして静かに吐く。言葉も矛盾も溜息も何もかもすべて。
「当たり前でしょうね」
「わかってくれて嬉しいよ」
 彼はリザの軍服に手をかける。ボタンが一つ、二つと外された。焦らすような真似をするあたりこの男はサディストの気があるのかもしれない。
「大佐」
 リザの言葉に男の手が止まる。
「私は大佐に従うことができません」
 彼はぞくりとした冷たさに息を止める。この冷たさは。
「ご存知の通り」
 リザは彼の胸から静かにナイフを抜き取って彼の喉を掻き切った。最初は何の役に立つのかと思った大振りのナイフも、こんなときは使える。
「私は少佐のものですので」
 ひゅうひゅうと喉から息が漏れる音がして男は粛々と死んでいく。リザはナイフの血を軽く拭きとってから彼の机へ向かった。引き出しの中を漁るとすぐに写真が出てくる。おそらくこれを使って彼女を脅そうとしたのだろう。
 そこにはロイ・マスタング少佐とリザの姿があった。リザが彼の部屋へと入るところ。入ってから彼に服を脱がされるところ。ロイとリザの体がベッドでもつれ合っているところなど数枚にわたった。
「まったく…」
 よくもこんなものを、とあらためてこれを持っていた男に殺意がわく。すでに殺した後ではあるが。
「シャッター音に気づかないと思ったのかしら」
 部屋に響いたかすかなシャッター音と何かの気配と視線。この時、ロイは面白がっていたがリザは気が気ではなかった。人に見せるものではない。
 この後は死体を処分して写真を一応ロイに見せなければならない。それが少し憂鬱だった。きっと彼の部屋に行けばまた何かあるのだろう。次の日も戦争なのに。その次の日も戦争なのに。



 



 *POSTSCRIPT*
 エロイアイというリクエストでしたけどももろに書くわけにはいかなかったのでこんなことになりました。一応リクエストの小説は全年齢向けを心がけております。ただこれに関して言うと、エロっていうか別の方向で年齢制限な気がします。もうちょっと、もうちょっとこう、なんとかしたかったけどもしょうがない。イシュバール時代のおかげで大佐が少佐でリザちゃんくどいてるのを大佐にしました。わっかりにくーい。



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