finale それはいつも唐突なので、最初は気づかない。けれどふと目をやった瞬間には起きている。止めることはできない。第一、止めるつもりがないのだ。終わるということ。 「チェックメイト」 「……」 リザは盤を見つめて黙り込む。またもやしてやられた。 「君の負けだ」 いやに嬉しそうなロイに苛ついて仕方ない。何故負けたのかを検討する前に駒を崩してしまったのはそのせいだ。 「ははは、そんなことをしても勝敗は変わらんよ」 わかってます、リザは不機嫌に言う。 「さて、コーヒーを淹れてくれるかな。敗者復活戦はそれからだ」 リザは言われるままに席を立ち、ロイは白いガーデンチェアで足を組む。彼はとても疲れている。 ロイは崩れた盤を見つめて、気づいたように組み立て直す。盤上の駒は脆弱、修復にあたる自分は傲慢、破壊した彼女は暴虐だ。この作業は自分の仕事によく似ている。 「何か深いことを考えている顔ですね」 いつの間にか上機嫌になったリザがロイに言う。 テーブルに置かれたコーヒーは熱そうだ。少し待つことに決めた。ロイは猫舌であることを誰にも言わないようにしている。 「君が破壊の限りを尽くした世界を直しているんだ」 「…それはどうも。ご丁寧に」 ロイはすべてを元に戻すと、そのまま一人で駒を動かし始める。 「すべてが元通りにならないものかと思うよ。時々だが」 「どうにもなりませんから」 「そうだな、どうにもならん」 この駒は彼の理想だったのかもしれない。配置は整然、手管は円滑、結果は安寧。 「明日になったらどうなるかはわからんがね」 ロイは黙々と駒を動かす。リザの役目はただ聞き手に回るだけではない。 「チェックメイト」 リザはポーンをキングの前に置いた。 「今この瞬間にはの間違いでしょう」 ロイは盤から目を逸らして上を向く。途方もなく晴れていた。後悔をしている暇こそ無駄なのだ。 「…そうだな」 コーヒーはもう冷めていた。今更だ。何もかも今更。取り返しなんてつかない。 焦燥は失策、怠惰は壊死、熱の中は潔癖。 終わりの日なんてものは来ない。 |
*POSTSCRIPT* 私はチェスの知識がこれっぽっちもありません。また無謀なことを、と思うのですがやりたかったのです。 |
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