花と散るらむ




 月の明るい夜にすることは決まっている。
 彼は自分にそれを科していて、今まで欠かしたことがないほどに馴染んでいた。
「…何をなさっているのですか?」
「夜這い」
 御簾越しの声は曇るどころか朗々と響いた。きっと今夜は月が見事なのだろう。
「たった今他の方の夜を奪ってきたのでしょうに。まだ足りませんか?」
「残念ながら、私は貪欲でね」
 強情な女に男は笛で懐柔しようと考える。袖の下からそれを取り出そうとした時、女は言った。
「欲深は醜い」
 女の言葉はいつも正しい。仕事のことを考えるといつも思うが、彼女が女でないことが惜しくてならない。
「あなたはそれを望んでいるはずだ」
「それは誰の戯れ言でしょう。私にはとんと記憶が」
「寂しいことは言わないでくれ」
「あらそんな。あなたほどの方が私ごときに手をつけるなど、よくあることすぎて笑えません」
 ここ数ヶ月で彼女は男をかわすのが上手くなった。前から男の転がし方は心得ていたが、最近は妙だ。その妙の理由を突き詰めていくのが恐ろしい。嫌な結論に達する気がする。そして自分は、その結論の内容を頭のどこかで理解しているのだ。
「素直になればいいのに」
「素直になるべきはあなたでしょう?」
 女の声が硬くなった。
「身代わりはもう嫌です」
「…それは困ったな」
 女は扇で口元を隠し、ころころと笑う。先ほどまでの緊張をかけらも見せないその技を教えてもらいたいほどに自然だった。
「うん、困った」
「もう来ないでください。そうでなければ、愛してください」
 見苦しいのは嫌いだ。彼女もそうなのだろう。だからこそ、こんなことを言う。
「…すまないな」
「それは身勝手」
「あなたは真っ直ぐで誠実だ。友人としてでも」
「それはできません。私はあなたを愛してしまったのですから」
 彼女は道理をわかっている。だからこんなことを言う。
「望むのは罪です」
「…私の愛する人はあなたによく似ていた」
「それで身代わりを?」
「いいや、あなたならば愛せると思った」
「…その人は今どこに?」
「さあ、わからない。多分どこか遠くに」
「報われない恋に酔わないでくださいまし、罪な人」
「あなたに責められるのも悪くない」
「お上手ですこと」
「…では」
「ええ、さようなら」
 別れを惜しむほどではなかったが、ふと物悲しさを覚えた。こんなことは初めてだった。
 嫌味なくらいに月が見事だ。気分が悪かったから庭を突っ切って門を出る。牛車は辛抱強く待っていた。
 さよならを言うのはこれきりにしたい、毎回思うけれど、どうせ毎回ダメになる。



 



 *POSTSCRIPT*
別れちゃいましたね。いや別にこの二人がロイアイのつもりはないですよ。男がロイで愛しい人がリザですよ。この女の人はどこかの誰かです。またリザちゃん出てないよ。
実はNO資料で挑んだのですが。いやほんとのこと言うと資料漁るの面倒だったので乏しい知識を総動員したのですが(できてない)そんなことはするものじゃないなと心の底から思いました。だってあたしの知ってる平安豆知識なんて化粧が厚すぎて笑うとおしろいが崩れるから扇子が欠かせなかったとかトイレの箱の中身は川に捨ててたとかそんな微妙なものしか(ダメじゃん)(しかも一般常識レベルの知識)



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