ひかりを掴む




 聖なるかな聖なるかな聖なるかな!
 ああ、我が主、愛しき御使い
 どうぞ皆様私の堕ちる様を見届けてくださいませ。


 こんな本一冊で何ができるの。
 私の母親はキリスト教徒で、しかもカトリックだった。カトリックがどうとかプロテスタントがどうとか、内容について私はよく知らない。両親が離婚したときに、父についていったからだ。父は母と別れてから家にその手の物が入ることを頑なに拒んだ。例えば十字架一つでも、それが母が残していった唯一の物だとしても、父には嫌悪の対象でしかないのだ。
   学校の図書室には聖書があった。
 何故こんなものが、と考えた事すらない。けれどもこの学校はごく普通の公立高校だ。本来ならあまりない。


「君は天使のようだよ」
 一人のアホがいた。
 とりあえずその天使とやらがどんなものなのか調べてみる気になった。
「天使って何」
「知らないの?」
「知ってるわ」
 アホはアホのまま、今日も私の後を追い掛け回してきた。
「じゃあ、それでいいじゃないか」
 そのアホは今も目の前にいる。
 聖書というのは世界一のベストセラーであり、それと同時に恐ろしく難解だ。深く考えると解けない問題ばかりで、気が狂いそうになる。
 そういえば母の愛読書も聖書だった。
 天使。
 それはどうやら人に羽根が生えている、とそれだけではないらしい。
 どんなに醜い人間でも羽根が生えれば天使になれるじゃないか、そう思っていた私の考えは一気に覆された。そんな考えを持つ方が悪いといえば悪いのだけれど。
「天使になんかなりたくないわ」
「どうして」
 独り言に律儀にも答えを返すこの男は稀なる人だ。
「いいことなさそう」
「どうして?綺麗だ」
「綺麗だからっていいものとは限らない」
 彼は何か言おうとして、その言葉を飲み込んだ。
「天使が本当にいたら、きっとお母さんを助けてくれた」
 母は去年亡くなった。知らせを聞いて、私は駆けつけたけれど父は来なかった。彼女の最期の言葉が、忘れられない。
「天使が見えるわ」
「何?」
「別に」
 恍惚とした表情で、病室の天井で煌々と光る蛍光灯に向かって手を伸ばしながら。


 天使が見えるわ。


 母は、あの光を掴んでみたかったのだろうと思う。
「『私はアルファでありオメガである』」
 力の無い腕から緩やかに手の中の分厚い書物が落ちてゆく。
 本と言えない聖なる書物。
「・・・・・・ダサ」
 窓から差し込む光があった。
 その光は、私を貫き、その下の床をも貫き、そして。

 そして、ただ落下する。    




 




 *POSTSCRIPT*
 31515hitを踏み砕いた(何だそれ)カラスツグミ嬢からのリクエスト。オリジナルでテーマは「天使」。
 ぶっちゃけましょう、むずいよ!!
 すんごい勢いで書けなくて焦った挙句に聖書まで持ち出してヨハネの黙示録読んじゃいましたよ!できなさ加減にもうびっくりだ。
 
 31515ありがとう!!(えーなんか投げやり?)



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