ひざにくちづけ



 黒づくめの彼は往々にしてあたしを無視するのですよ。


「ねえクロロさん」
「んー?」
「あたし暇なんだけど」
「ああそう。そりゃ大変」
 大変だなんて思ってないでしょ。すぐわかるんだからそんなこと。だって目線がいつもと同じに本の上だわ。
「人と話す時本は閉じなさいって小さい頃習わなかった?」
「育ちがよろしくないもので」
「何それ」
「俺はね、頭イイから本読みながら君と話すくらい朝飯前なんだよ」
「なんだかバカにされてる気がするわ」
「あ、わかっちゃった?」
 なんだかこうしていることがバカらしく思えてくる。ああ、だからダメなのよ。
「ねえクロロさん」
「んー?」
「好き」
「ああそう」
 ここでめげちゃいけない、がんばるぞ!
「キスしようよ」
 今日、あたしの唇にはお気に入りのピンクのグロス。さすがに口紅は柄じゃない。
「したいの?」
「うん」
「俺としてはするならもっとイイコトがいいんだけど」
「やーだークロロさんやらしーっ!」
「はいはい」
 いつも通りね。どうせはしゃぐのはあたし一人よ。
 いつも通りね。あたしじゃあなたの視線一つ動かせやしないわ。
「ああー淋しいようー」
「何で?」
「だってクロロさん相手してくれないんだもーん」
「本読んでるデショ」
「放棄してください」
「却下」
 ああもう。
 このヒトはあたしの言うことなんか絶対ろくに聞いてくれないんだわ。
 これからも。
 ずっと。
 きっと。
 生きてる限り。
「ねえクロロさん」
「んー?」
「やっぱキスしよ?」
「だからイイコト……」
「それはもういいから」
 そう言った途端、クロロさんは本を閉じて床に置いた。
「あれ?」
「読み終わった」
「ああ、そう」
「で?」
「え?」
「キスだっけ?」
「あ、うん」
 唇に、感触。
 ああグロスとれちゃうなあ。でもいいや。なんか嬉しいし。これでクロロさんの唇がピンクにてかってたらそれはそれでおもしろいし。
「なんかよろしくないこと考えてただろ?」
「どうしてそう思うの?」
「なんとなく」
 もう一度。今度は歯列を割って舌が入り込む。このヒトいつもキスがすごくうまい。
 白けるような水音がする。
「あたしあなたはもっと理論的なヒトだと思ってたわ」
「俺のカンはよく当たるもんでね」
 特に、イヤな予感。
 ああサイアクだわこの男。
「つまんない」
「つまります」
 ごくごく近い目線だったのが、段々あたしの体に落ちてくる。
「クロロさん」
「はいはい」
「目がやらしい」
「……ああそう」
 このまま放っておいたらどうなるだろう。
 恐怖心は素晴らしいほど皆無だった。
 目が合った。
 ふ、と彼が笑う。
 口の端を持ち上げるだけの、特有の笑い方。


 ひざにぬくもり。


 ひざにキスされた。どういうことかと思ったら、そこはなんだかピンク色。しかもキラキラしてる。
 あたしのひざはタオルでもティッシュでもないのに。

「ご満足ですか?」
「……クロロさんて性格悪いわよね」
「今更気づいたの?」
「………」


 ひざにくちづけ。


 そんなステキをやらかすのなら、アンコールって叫ぶから。
 もう少し、キレイなラストをあたしに見せて。




 




 *POSTSCRIPT*
 すんごい書きやすかった!なんかこういうなんでもない(?)会話をつらつら並べたてる系の話というのはもう書きやすくて楽しくてしょうがない。
 駆け引きが好きです。これあんまり駆け引きになってないけど。
 それにしてもクロネオ。懐かしいですねー大好きだ!あたしにとってのハンターハンターは当時11巻がすべてだった。マジで。
 というか団長が一番出てくれたんじゃないかあの巻。そして今あの漫画はどうなっているのだろう



BACK















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送