触れる、指




 あまりに幸せであまりに苦痛で、思わず目に涙が浮かんだ。


 額に落ちたぬくもりに目が覚めた。
「どうした?」
 聞きなれた声。現実に立ち戻ったことに気づいて、少しだけ安堵する。
「何が…ですか?」
 ロイがホークアイの頬に触れる。
「泣いてる」
 目の端が濡れていた。本当に涙が零れていたらしい。
「どうして」
「それを聞きたいのはこちらの方だ。怖い夢でも?」
「それくらいで泣くような歳じゃありません」
 それもそうか、ロイは薄く笑った。
 彼が何も聞かないことが不思議だった。しかし、これが彼なりの気遣いなのだろうと思う。その遠まわしな好意に気づくことができたのは、長年の付き合いの賜物だ。
 この腕の中で眠るときだけ、すべてを手放してもいいような気がする。
 なんてばかばかしい思考。
「髪、随分伸びたな」
「ええ。そろそろ切ろうかとも思うんですけど」
「やめたまえ。せっかく綺麗なんだ、もったいない」
 ロイが、ホークアイの髪にくちづける。
 最近見る夢はとても幸せで、いつもいつもこれが現実だったら、と願ってやまない。
 それは例えば、もういない大切な誰かがそこにいて、愛しい人がすぐ隣りで微笑んでいる、幸せでゆるやかで穏やかな。
 けれど本当は、現実の、ほんの一時の幸せを噛みしめるだけでいい。それ以上の幸せなんていらないのに。求めてはいけないのに。
 触れ合いたくなった。
 この指に触れて。
 この唇に触れて。
 この腕を、掴んで離さないで。
 このまま、抱き合って離れないで。
 再び涙がこぼれそうになった。それを必死でおしとどめる。
「本当にどうしたんだ?」
 ロイが怪訝そうな顔でこちらを見つめる。もっとも、暗いからはっきりとは見えないのだけれども。
「なんでもないです……」
 この情けない顔が見られないですんだのは幸運だった。
 あの穏やかで幸せな夢がもしも現実だったら。
 何の危険もなく、ただただゆったりと暮らしていたら。
 そうしたら、きっと。
「貴方に会えて、よかったと、そう思ったんです」
 きっと、ここにはいなかった。

 指と指が絡み合う。
 ――温かさに眩暈がした。
 それ以上の熱さを、ついさっきまで共有していたはずなのに。
 唇が目の端に触れる。
 ――柔らかさが救いだった。
 こうしていられる時間があるということが。

 隣りに彼がいてくれるということが。

 眠りの間、触れ合う指を、心底愛しいと思った。





 




 *POSTSCRIPT*
 麻生さんからの6000hitリクエストで、ピロートーク系!
 中尉視点にしてみましたが、い…いかがでしょうか?
 それにしても結構事後の小説好きな人いますね。いやいやかくいうあたしも大好きですが。なんなら最中でもい…(殴)
 ええまあそういうわけで(どういうわけですか)なんとなーく色々やらかす勇気が出ました。
 麻生さん、6000hitありがとうございました!
 ぜひぜひこれからもよろしくお願いします!!    



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