不足は君




 カルシウム。
 足りている。
 鉄分。
 問題ない。
 苛立ちや貧血の原因になるような栄養素は特に不足していない。生活習慣は悪くとも食事は悪くない。軍の食堂はそのあたりはきちんとしている。何故ならば実際に動くときにまともに動けなければ意味がないからだ。太りすぎも痩せすぎもいらない。筋肉は必要。冷静に物を考える頭も必要。それから上にへこへことついていく技術も必要。
 それに堪えるためにはカルシウムも鉄分も必須だ。あまりのことに貧血で倒れましたなどとは恥ずかしくて人に言えない。血の気は多いくらいで充分だ。多すぎても困りものだが。今の自分のように。
「……」
 きっと今何かを言ったら彼女を罵る羽目になる。罵りたいわけでもない。殴りつけたいわけでもない。
「…大佐」
 沈黙に耐えかねたのだろうか、彼女が声を上げる。
「何かあったならすっぱりと仰ってください。私に非があるのならば直します」
「言わなければわからないのかね?」
「わかればよかったのですが。申し訳ありませんが私に思い当たる節がありません。何に怒っていらっしゃるんですか?」
「怒ってない」
「大佐」
 こういうとき彼女は子どもを叱るような声になる。それが嫌だ。自分は子どもではないし、彼女よりも年下でもないし、彼女の男でも子どもでもない。
「怒っているとどうしてそう思うんだ?」
「見ればわかります」
「だからどうして。私は普通だろう」
「一見するとそうですね」
「なら問題ないじゃないか」
「問題ならばあります」
 リザは目を伏せた。罵らずに済んだのは幸いだ。きっと自分が何かしたら、それを背負うのはすべて彼女に違いない。それはできるならば避けたかった。が、避けずにいられる自信もない。
「気づいてしまったので」
「仕事がやりにくいだろうな」
 こうなったら最終手段、先手を打つことにした。それでなくてはいられない。本当は腸が煮えくり返って仕方なかった。それを無理やり押さえ込む。彼女は何も知らない。彼女は何も知らない。
 気づかないと思っていたのだろうか。
 肩に回された男の腕にそれを拒まなかった彼女にそれを遠くから見ているしかなかった自分に。
 吐き気がした。



 



 *POSTSCRIPT*
 独占欲になっているかどうか。つもりだけは一人前。



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