生けどりの花




 ハウエル・ジェンキンスは変わり者だった。
 きれいな顔をしていたし、人を煙に巻くことも多かったけれど、一見屈託のない性格をしていたので、女の子からは好かれた。どんなに手酷く振られたという話を聞いても彼女たちが離れていかなかったのは魔法だったんじゃないか、今になるとそう思う。どちらにしろ彼は物騒な男だった。力が強いわけでもないし素行が悪かったわけでもない。けれどとにかく物騒だったのだ。特に、性格面で。
 おかげで彼の交遊関係はそんな女の子たちの他はラグビー部の仲間たちくらいなもので、結局は一人でいるようなことが多かったような気がする。
 彼はそういう人だった。
 そして彼が一層周りから変人扱いされることになったきっかけは卒論で魔法を取り上げたことだった。いよいよやばいぞ、と思われても無理はない。何しろ魔法!魔法だ。おとぎ話じゃあるまいし、そんな研究をするなんて妙な宗教にはまりこんだかオカルトに傾倒しはじめたかのどちらかだろうという噂が立った。
 その後彼がどこに行ったかは誰も知らない。ラグビー部の同窓会には顔を出すけれど職業から家族から一切謎だ。
 だから至極驚いた。
 こんなところで彼を見掛けるだなんて!
 もういい年なのに派手な金髪にして、十代後半に見える赤毛の少女と一緒だった。
 声をかけるかどうか悩んだけれどきっと彼は気付かないだろう。彼はそのくらい少女に夢中だった。
「聞いてないわよこんなところまで連れて来るなんて!」
「そりゃあ言ってないからね」
 飄々と答える様子は昔のハウエルとあまり変わっていなかった。
「ミーガンのところに行ったらすぐ帰るんだと思ってたわ」
「せっかくウェールズまで来たんだからデートくらいしないと損じゃないか。ほら、買い物にでも行こうよ」
「あんたの買い物長いじゃない」
「全部ソフィーのためのものだからね。貴重な時間も問題にはならないさ!」
「…夕食までには帰るわよ」
「わかったよ」
 彼らの声は確かに大きめだったけれど、どうしてここにいる自分にこんなにはっきり聞こえるのだろう。
 これも魔法?思わず苦笑してしまう。
 願ってもない再会は少しだけ奇跡のようだ。堂々とした盗み聞きもやはり少しだけなら許されるだろう。
「久しぶりだな。元気にしてた?」
 あまり嬉しそうじゃない声音にも聞き覚えがある。おかしなものだ。
「ああすこぶる元気さ。お前も元気そうで何より。今度は彼女を紹介しろよ」
 それに思わず答えてしまったのはどうしてだろう。そう、自分が話しかけられたとしか思えなかったから――
「…考えとくよ」
 一転して不機嫌そうな声が響く。まさか。ありえない。本当に魔法なんてもの使えるはずが。そもそも存在さえあやしいのに。いやしかしあの男なら、とも思う。ハウエル・ジェンキンスのしでかすことならば不思議なんてことは無いような気もする。
「ねえ、さっきから何をぶつぶつ言ってるの?」
 赤毛の少女が問い掛ける。
 そのセリフは疑いを確信に変えるのに充分な効力を持っていた。それでも否定したくなるのが人の常だが、今ここだけの縁なのだ。忘れることにした。
 気を取り直して二人に目を向ける。ハウエルの反応は少しだけ気になった。
 しかしよく見ればハウエルの恋人(なのだろう。多分)はとても美人だ。吸い込まれそうな青い瞳に桜色の頬、すらりとした手足に伸びやかさが伺える。確かに今も美人だが、二、三年後が更に楽しみだ。見かけても声をかけることすらままならない、そんなきれいな少女。
 ハウエルはその考えを見抜いたのか魔法を使ったのか知らないが、こちらを一瞥して今までで一番不機嫌そうに呟いた。
「あんたを生け捕りにしてやりたい」
 …相変わらず彼は物騒な男のままのようだ。



 




 *POSTSCRIPT*
 何が書きたかったんだかちょっとよくわかんないまま終わってしまった。あれー?



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