今は知らなくていいのさ




 猫みたいだ。
 気ままに気まぐれに、素直だけれど少しわがままで。エサを持っている人のところへは機嫌よろしくついていく。
 昔から思っていた妹の認識を再確認しつつ、DXは目の前の状況を眺めた。時は空き時間、場所は食堂。そこにいるのは妹と、それから玉階。
「はい、イオンさま。今日のお土産はこちらですよ」
 お土産ってお父さんじゃないんだから。
「わー!ケーキ?ケーキ!」
「また食べ物につられて」
 そんな食い意地のはった妹はそのセリフを無視するつもりらしかった。実際のところは、その姿を見れば一目瞭然だ。
「こんな頻繁にアカデミーに来ていいんですか?」
「あらDXさまとあろうお方がらしくない。要はバレなければいいんです、バレなければ」
 この女性は、なんというか、時々、とても。
(豪快だ)
「じゃあ言っちゃおうかなー」
 後ろから不穏なセリフが聞こえたと思うと、そこに居たのはレイ・サークだった。
「レイ」
「最近よく来るねー。いいの、『アンちゃん』?」
「お前が言うと気持ち悪い」
「…アンちゃんとお兄の知り合い?」
 大口を開けてケーキをほおばっていたイオンが不思議そうに尋ねる。
 やっぱり猫みたいだ
「そう。男子寮の相談役、レイ先輩」
「レイ・サーク。よろしく。君が噂のルッカフォート妹か」
「イオン・ルッカフォートです」
「自己紹介のときくらい皿をテーブルに置いたら…」
「何で?」
 行儀作法は何のために習ったんだろう。補習までしたのに。レイは横で爆笑している。本人は何とも思っていなくても、なんとなくいたたまれない。
「ルッカフォートのお嬢様は面白いな!」
「レイ!」
 アニューラスがレイの耳を引っ張った。殴り飛ばすべきだったかもしれない。
「いやいや。ほら、奔放なんだろう。いいことじゃないか」
「お前が言うとうさんくさくていかがわしい」
 まったくその通りだと思う。
 DXはイオンを見た。早く食べ終わらないだろうか。この二人組の相手は、どうにも疲れる。
「あ、イオンさま。今日はもう一種買ってきたんですよ。これがまた絶品で」
 イオンが口の中のケーキを味わいながら目をきらきらと輝かせる。期待とか希望とか食欲とかそんなものでいっぱいだ。
 これで逃げの一手は絶たれた。相手が一枚上手というべきか、学習したというべきか。
「ありがとうアンちゃん!!」
 それでも力いっぱい喜ぶイオンを見るのは悪い気がしなかった。いくら二人の相手をしなければならないとしても、多分きっとなんとかなる。
「それにしても」
 レイはDXに言う。
「君たち兄妹は何でも簡単に食べるな」
「ダメなんですか?」
「無頓着すぎるぞ継承候補」
 レイは呆れる。呆れるを通り越して、いっそ感心だ。
「危なかったら六甲が止めます」
「優秀な護衛だ」
 レイは溜息をつく。今はいいだろう。今なら。しかしその信用さえ通用しない世界に言ったとき、彼らはどうするのか。
(王が一発で毒殺されるとか、それも面白い話だが)
 その王がDXだとしたらそれもあまり面白くなくなってくる。
「あ、イオンさまクリームが」
「え、どこ?」
 レイが少々真面目に考えていても女性陣は気にしない。本来ならアニューラスも考えなければならないところであるのに。
「ここに」
 アニューラスがイオンの口元のクリームを指ですくった。それをそのまま舐める。
 レイは思わず思考を止めて呆然と目の前の光景に見入るが、すでにそこはアハハウフフとお花が舞い散るステキな世界だ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
 何故かDXは平然としている。まったく普段と変わらない。脅威だ。
「あれはどうだいお兄ちゃん」
「何がですか?」
「…恋に生きる男の割りに鈍いな君は」
「は?」
 レイは呆れて言う。今日は呆れることばかりだ。この光景に何も感じるところがないとは。噂と情報とその他諸々によると彼はけっこうなシスコンであるからあえてということはないのだろう。するとこの底知れなさ、つかみどころの無さの要因は――
(『世間知らず』いや『天然』か?)
「いやなんでも。そうかそうか、なるほど」
「そんな言い方されると気になるんですけど」
「今はまだ知らなくていいのさ」
 レイ・サークはにやりと笑う。あまりのうさんくささにつっこむことさえできなかったDXは早速後悔する。




 



 *POSTSCRIPT*
 ランドリ大好きー。レイ先輩好きです。でも正直なところイオンがかわいすぎてしょうがない。かわいいよあの子!



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