イノセンス まずおかしいと感じたのはその声だった。 それからよくよく観察してみて、おかしいのは声だけではないことを知った。顔が赤い。ぼうっとしている。触れた指先の、なんて熱いこと。 「・・・・・・大佐」 「何かね中尉」 仕事中だというのにも関わらずセクハラをかましてきたロイを、心底ありがたく思った。 「風邪ひいてるでしょう」 だるそうに、しかしながら精力的にホークアイを壁に押し付けていたロイは、その眉根を寄せる。 「・・・何を言うんだ。自慢じゃないが私は昔から丈夫な性質で風邪の一つも滅多に・・・」 「だから気づくのが遅いんですよ」 もともと近づいていた顔をさらに近づけて、ホークアイはロイの額に触れる。 「やっぱり熱い」 「――――」 ホークアイは溜息をつく。どうしてこんなことになるまで気づかずに放っておくのか。 「大佐、今日はもう帰宅してください。仕事より体を回復させることの方が今は先決です」 「いやしかし今日中に出す報告書が・・・」 「なんとかします。ですから」 「しかしそれでは出勤してきた意味が・・・」 「どうしていつもはサボるくせに今日に限ってそんなに仕事に情熱的なんですか」 熱が出ているからだろう、おそらく。 「根性出してここまで来ているのならセクハラなんてしてる暇があるわけないでしょう」 「それも職場の楽しみの一つなんだよホークアイ中尉」 熱が出ているくせにはっきりと物を言う。科学者はこんな時でもふてぶてしい。 「――わかりました。それはもういいですからどうぞ帰宅してください。もしくは医務室に」 「医務室は嫌だ」 「何故ですか」 「あの部屋のむさ苦しさは尋常じゃない」 確かに医務室に勤務する医師は男性だ。そしてまたそこに現れるほとんどの人物が男性。女性仕官の少ない東方軍部においてそれは仕方のないこととも言えた。が、それが彼には至極気に食わないらしい。 「美人の看護婦でもいたら行ってやってもいいと思うのだが」 「・・・・・・・・・もういいから帰ってください」 本当に何を考えているのか。そのうち大総統になったらすべての医務室に美人ナースを、くらいのことは言いかねない。 「しかし、君は来てくれないんだろう?」 その目は看病くらいしてほしい、と言っていた。それに気づいてしまうから嫌になる。 拗ねた顔をして、子供みたいに強情に。 「大佐」 近くにあった顔をそのまま引き寄せて、ホークアイはロイに口づける。 意外や意外。ロイはその行動に目を白黒させるばかりだ。 静かに唇を離れると、余計に顔が赤くなった気がした。 「早く治して出勤してきたら、続きをしましょう」 ホークアイはそのままロイを押しのけ、執務室を退出する。これはこのままさっさと帰れということだろう。 続き。 続きをさせてもらうためには、どうしたってこの風邪を治してしまわなければならないらしい。 彼女の気が変わらない内に、さっさと帰ることにした。 風邪という病は、恋に似ている。 純粋に、そう思った。 |
*POSTSCRIPT* 26000hitゲットの由佳さんに捧げますロイアイ小説〜。 不意打ちキスとかすごい個人的にツボなリクをしてもらっちゃいました。やったぜ。 あれなんですよね、大佐→中尉にすべきだったかもしれないと思ったりもしたんですが、中尉で病気ネタはもう使ってしまったのでね、だから大佐で。ネタの使いまわしはそろそろどうかと思いますよ。 ではでは、26000hitありがとうございました!! |
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