イロゴト




 キスをしても抱きしめてもなんだか面白くも嬉しくも楽しくもなかったんだよ今までは。
 一世一代の告白をしたつもりだったのだけれども、ソフィーはそれがどうしたとばかりに眠りに落ちようとしていた。
「…ソフィー」
 眠っているところを起こしたら怒られるだろうか。しかしこの結婚初夜という、なんていうかこう個人的には一大イベントの今、そんなときにまで彼女が怒るとは思えなかった。どちらかというと照れて怒鳴るのはあるかもしれないけれど、ベッドの中くらいしおらしくしてもらわないとこれから先が困る。非常に困る。
「ソフィー、聞いてる?」
 ハウルはソフィーの顔を覗き込む。抱きしめた胸も腰もすべてが柔らかくて滑らかで、胸の奥がざわついた。
「ん…ハウル、ねえもう寝かせて…」
 そういう声はかわいすぎるからやめようよ、言ってやろうかとも思ったけれど声なんて出なかった。愛しくてたまらない。
「寝かせてやりたくなんてないんだけど…」
 もう一回、とばかりに首筋をついばむとソフィーはくすぐったそうに身をよじる。
 これだからいけない。
 全部ソフィーのせいなのだ。愛しすぎてどうにかなってしまいそうになるのも体が言うことを聞かないのも、わがままや欲求がどこまでも深くなってしまうのも。
 ハウルは背中から抱きしめたソフィーのむき出しの肩に軽く噛み付いた。冷たくした罰だ。
「なに…?」
 疲れているのだろうことは容易に理解できた。
 結婚式をやることになってから終わるまで大変だったし忙しかったのだ。花屋も休めばいいのにやっていた。おかげでその間手を出せなかった、恨み言の一つや二つでは物足りないほど我慢したのだ、ハウルは。今日という日をひたすら待ち焦がれていたのはどちらかというと彼だったのかもしれない。
「ねえ、ソフィー」
 寝かせてやるつもりなんかない。そして明日は怠惰に過ごすのだ。掃除も洗濯も食事も気にせず、だらだらと午睡を楽しむのだ。煩わしいことが何一つないところなんてきっと世界でここだけになるのだ。
「キスをしても抱きしめても、こうやっていても今まではちっとも楽しくなかったんだ。疲れるばかりな時もあった」
「ハウル…?」
 ソフィーがぼんやりと目を開く。彼女の頬は少し赤く染まっているだろうに、見えないのが少し悔しい。
「君に会えて良かった」
 ハウルはソフィーの顔を自分の方に向けるとキスをした。歯列を割って舌を探し出して絡める。開いた唇からは吐息が漏れて、湿った空気を作り出す。
 目を閉じるのも堪えがたかったので、ハウルは薄く目を開いたままでソフィーを見ていた。これが夢ではないように、夢なら消えてしまわぬように。



 




 *POSTSCRIPT*
 お題が「イロゴト」なのでまあそのままその通りにしようと思って。でも事後ですけども。最中もまた書くかと。



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