次回をお楽しみに




 あの男はいつも手品を使って私を惑わせる。彼は本当に惑わしているつもりになっているので私はわざわざ引っかかってあげる。優しさと同情は世界を救うのだ。私はまだ世の中の何たるかもよくわかっていないような学生だけれど、そのくらいは知っている。
「先生、呼びました?」
「ああ、よく来たな」
 呼んだのはそっちなのに先生はそんなことを言う。面白くもない。
「何か用ですか?」
「進路調査表。出していないのは君だけだ、リザ・ホークアイ」
 進路調査表。嫌な響きだ。思わず顔をしかめてしまう。
「先生、私将来軍人になりたいんです」
「…いいものじゃないぞあれは。特に女性にはお薦めできない職業bPだ」
「詳しいんですか?」
「知り合いがちょっとな。できれば他のものにしなさい」
「じゃあ教師」
「もっと薦められない」
 ああいえばこういう。教師になりたいなんて思ったこともなかった。この男の影響ですらない。ただの嫌味をまともにとられるのはとても困る。これがこの人の嫌いなところその1。
「先生、私が将来何になるなら満足してくれるんですか」
 先生はスーツのネクタイを緩める。どうも面倒になってきたらしい。それか何かしでかす気なのか。ここは学校なのに。溜息を吐きたい気分になるけれど、吐いたらそこでつけ込まれてしまうに違いない。厄介な男だ。嫌いなところその2。
「そうだな…」
 ああこういうもったいつけるところが特に大嫌い。嫌いなところその3。
「先生のお嫁さん☆って可愛く言ってくれたら特別に期限を過ぎたのも見過ごしてあげよう」
「最悪です、先生」
 嫌いなところその10くらいまでが一気に出てしまった。この態度もセリフもお嫁さんも図々しさも何もかもが嫌い。
「やはりそう思うかね女生徒その1」
「私先生のこと嫌いです」
「予想はついていたよリザ」
「名前で呼ばないでください」
「おっと失礼、ホークアイ」
「……」
 どうにもからかわれている気がする。実際からかわれているのだろう。手品か何かを見せられている気分だ。おどけているのか真剣なのかわからない。種をどこに隠し持っているのか。
 そうしている間に先生は私のいる戸の近くまで来ていた。準備室は校舎の端も端、放課後になれば誰も来ない。吹奏楽のパポープポーという音だけが遠くで響く。運動部はどこへ行ったのだろう。
「やっぱり最悪です、先生」
 先生は手を伸ばして鍵を閉めた。私は先生の首に手を回した。この男が嫌いで嫌いでしょうがない。


「結局私はどうなるんですか、先生」




 



 *POSTSCRIPT*
 子どもは嘘をつく生き物です。注意しましょう。次回をお楽しみに。
 本当は続きなんて無いですよ。注意しましょう。 



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