振り向けば監獄




 見つめ続けることはできない。自分の中の醜い嫉妬に気づいてしまうし、それは思いのほか酷いものだったからだ。嫉妬は汚い色をしていて悪臭を垂れ流し俺の失墜を促す。酷い奴だ。  それにみすみす乗ってやるのは嫌なので――第一、俺はその嫉妬の対象が好きなのだ。本当に――我慢する。耐える。堪える。できる限りではなく、できる以上の我慢をする。
 それは、とても、つらい。

「寂しいとか言ったらぶん殴りますか?」
 俺は一つの賭に出た。勝利の確率はすこぶる低く、俺の体調も最悪だ。素晴らしい。パーフェクト。ワンダフル。何だそりゃ。
「…何か悪いものでも食べた?」
 いつもと同じ涼やかな声でホークアイ中尉は言う。
「いやそういうわけじゃないんですけど」
「じゃあ…何?」
 何って中尉そんな。
「……一発ぶん殴ってください…」
 もう何も言わないでくださいすいません俺が悪かったんです。
 ああやっぱりダメだ全然ダメだ。勝てる見込みがない。畜生天然な女なんてろくなもんじゃない。
「そうじゃないでしょう」
「もうそういうことにしといてくださいよ…何か切なくなってきた…」
「それは重症ね」
 涙がちょちょ切れそうだ
「ええ、そりゃもう。不愉快なことばっかりなんです。いつもいつもいけ好かない上司とその副官が一緒にいて俺の目の前で夫婦漫才やらかすんですよ。よりによって俺の前で!」
「…いけ好かないの?」
「本当は愛してます」
「そうよね」
 そうだ本当にその通りだ。冗談めかしてあいしていますと答えたところでそれにすら嘘は混じっていない。しかし愛は愛でも恋愛の愛でなく敬愛の愛だ。勘違いされては困る。誰に?この人に。
「で、あなたはそれが嫌なの?ハボック少尉」
「そう…」
 誰が頷けるだろうか。本当に頷いていいのだろうか。今言ったことのはすべて勢いで、何も考えてはいなかった。上司とその副官の主従関係は昔からだ。それこそ、俺と二人が出会うよりも前の話。そんなころからの付き合いの関係に文句をつけることができるんだろうか。ぽっと出で彼女をかっさらってしまった(とも言えなくもない)この俺に。思い上がっていたのかもしれない。
 顔が赤くなる。恥ずかしい。とんでもないことをしてしまったのでは。
「…違います。そうじゃない」
「難しいわね」
 溜息をこぼす彼女はきれいだった。いつも以上に優しそうだった。
「貴方が寂しいとか言ったら」
 ホークアイ中尉はぽつりとこぼす。
 バカバカしい嫉妬心に付き合ってくれてありがとうございます、中尉。
「抱き締めるくらいはしてあげるわよ」
 俺は思わず密かに敬礼しかけていた手を下ろした。

「寂しい」

 あとはパーフェクト、ワンダフル、エクセレント!



 



 *POSTSCRIPT*
もうちょっと底抜けに明るくしたかったんですけど。
あたしが書くハボアイで甘いのはここが限界かもな…



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