カラスが泣いた




 消えてしまえばいい、そう思うのは他の誰でもなくて自分。求めるものなんか一つしかないので潔く進むことができるのはきっと彼にとっては失策。無分別な女と笑っていただいて結構。どうせ今更だ。すべて、今更。
「今なら死んでもいい」
 恐ろしいのはこの瞬間が終わることであり、不幸な結末を迎えることであり。
 リザは両手で顔を覆った。仰向けになった体の向こうにはロイがいる。それが不思議でならなかった。
「…物騒だな」
「知りませんでしたか?私は物騒な女なんです」
「知っていたさ」
 知っていた。彼はすべてを見通していて、本当は何もかも隠すことはできなかったのだ。
「憐れな女と笑います?」
「いいや。何故?」
「私は自分が見苦しい」
 リザはゆるゆると両手を下ろした。目を開けるとそこには今も彼がいて、彼女を見ている。裸の肩が寒そうだった。
「見苦しいものなんかないさ、というには君は自分に厳しすぎるな」
「ええ、そうなんです。もう、こうしていることも許せないくらい」
「一線を越えるのは許せなかった?」
 本当は戦場でだけ共にいられればそれで良かった。彼の野望に向かっているときだけ、そこにいられればよかった。彼と寝て彼の隣でぬくぬくと過ごす。そこはリザの立ち位置ではない。
「ドライな関係がお望みか」
「ドライですかこれが?」
「…違うな」
 自分にしかできないことをするためにリザはここにいるはずだった。皺の寄った真新しいシーツの汚れが気になって仕方ない。ロイの隣でこんなに居心地の悪い気分になるのは初めてだった。
「君はこの状況が許せないんだろう」
「はい」
「では何故誘いに乗った?」
「流された、では済まないと思います」
「君は簡単に流されるような女じゃないだろう」
 何故なのかと問われれば答えは一つ、そうしたかったからとしか言えない。自分で望んで男と寝て、それを後悔するのは筋違いのような気がした。
「――独りで寝るのが寂しかったからということにしておいてください」
 リザはため息をついて寝返りを打った。彼に背を向けるようにして寝なければ。そうでもなければ起きたときのショックが激しすぎる。
「君が簡単に泣くような女でないことに私は感謝すべきなんだろうな」
 リザは答えない。ただ、ちらりとロイを振り返る。彼の髪がカラスの羽のようで気持ち悪かった。
「割り切るつもりはない」
「馬鹿なことを言わないでください」
「君はどうする?」
 ロイはリザの腹に手を回して引き寄せる。背中から感じる男の熱とにおいに眩暈がする。ゆっくり寝たいのに。
「もう二度と貴方とは寝ません」
 ロイは一言、「それはどうも」と言うと目を閉じた。リザの体を押さえつけるように抱きしめると女のにおいがした。


 



 *POSTSCRIPT*
パラノイアがリピートで頭倦んでるんです。



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