希望と欲望と絶望と ――――さて、まずは落ち着いて考えてみよう。 現在時刻午前三時二十四分。このままでは徹夜になると考え、さすがにそれは明日の業務とその後の予定に差し支えるということを予想し、仮眠をとることにした。 そしてここは仮眠室だ。 今日残業で残っていたのはどういうわけか東方司令部実質上の最高司令官とも言われているロイ・マスタング大佐。あとは当直の者が数名のはずだ。 「これは・・・」 彼だけのはずだったのだ。 ここは仮眠室だ。明らかに、どう考えても彼以外の人間がいるのはおかしい。 しかし何故、何故彼女はここにいて、ベッドでぐっすり眠っているのか。 「どうしろと・・・・・・?」 彼女――ロイ・マスタング大佐の有能な補佐官、リザ・ホークアイ中尉――はその問いに答えるかのように寝返りをうった。 そのまま何も知らないふりをして別のベッドで寝ればよかったのだ。 しばらくして、どうしたって彼女から目を離すことが出来なくなってから気づいた。何故それに気づかなかったのだろう。少し考えてみればよかっただけのことではないか 理性と欲望の葛藤というものに自己が口出しすることは簡単にできないらしい。 せいぜい勝手に戦ってくれ、と思う。 どうせ自分は勝者の好き勝手に動くしかないのだ。しかしまあ、この目に映る彼女をじっと見つめていると、どうにも欲望に比重が傾いてしまうのだが。 寝顔というものは三割増はかわいく見える、と誰かが言っていたような気がする。あれはどこの誰だったか。おそらくそんな惚気を吐いては去っていったヒューズだろう。しかし彼は間違っていた。三割増?どこがだ。三割どころの騒ぎではすまない。よくよく考えても見ると、いつもクールな彼女のあどけない寝顔なぞそう簡単に見れるものではない、またそのギャップがイイじゃないか、とも思うのだ。このまま知らないふりをして勝手に寝ていればこんな姿をじっくり見ることはできなかっただろう。同じ知らないふりなら同じベッドに入ってしまった方が得だ。しかしそれだと目覚めた時が怖い上に、確実に理性というものが一度は死んでしまうことは明白だった。 決着がつかない・・・ こういう時は彼女を見なければいいのだ。見つづけているから欲望が大いに攻勢になるのだろう。 「ん・・・」 ああどうしてよりによってこんなときに声を出すのか。 声だけで寝姿が想像できてしまう自分が恐ろしいような素晴らしいような。 それにしても想像というものは普通に見るよりも夢と希望に満ち溢れて素晴らしいことになっている。またもや欲望が有利な状況に。 個人的には理性に打ち勝って欲しいのだが。夜が明けたときの彼女の反応を考えるならばやはり理性。 傷つけるのは簡単だ。 堕ちてゆくのも簡単だ。 しかし困難に打ち勝ってこそ手にするものは大きいと、経験上よく知っている。 この場合、彼女が何も知らないうちに手を出しておいて知らないふりをしてしまうことも、きっとできないことはない。まあ大分賭けだが。 しかしそれをしないのは、けしてそれができないのは―― 「おはようございます大佐」 「ああ、おはよう」 ロイは執務室にて彼女を迎え入れた。 「・・・どうかなさいましたか?」 「何がかね」 「目の下にくま」 「・・・・・・いや、ついつい徹夜で」 「ああ、昨日は残業でしたね」 何も知らないということは幸せだ。ロイは心からそう思う。 「それで、仕事の進みは――」 「渡された分はすべて終わらせた」 「すべて?」 リザが訝しげに問う。渡しておいた仕事は期限が2日先の分も入っていた。あとは少々締め切り破りの書類など。 「あの量をですか?」 「おかげで寝不足だよ」 ロイの瞼はいかにも重たげだ。 「・・・わかりました。仮眠室にどうぞ」 「いいのかね?」 「ええ、倒れられるよりマシです」 お言葉に甘えて。 このチャンスを逃す前に、ロイは素早く席を立つ。そうでもしないと眠りそうだった。 「中尉」 ただしかし、一つだけ確認しなくてはならないことがある。 「昨夜は――」 「昨夜は私当直でしたけど」 「・・・・・・・・・」 当直が勤務中に仮眠を取ってもいいのか、と言い返そうとしたのだが、さすがにそれはできなかった。何故そんなことを知っていると聞かれたら答えられないからだ。 「君は意外とくせものだな」 「今更何ですか」 今なら、今この瞬間ならば、彼女が昨夜の一部始終に気づいていたとしても驚かない。 |
*POSTSCRIPT* はい、47000hitの時雨さんからのリクエストで仮眠室で眠る中尉に出くわし理性と戦う大佐。 ちゃんと理性と戦ってますよ。しかし中尉がなんかすごい人になってしまった。 それにしても自分の書いたものとタイトルかぶるってどうなの。 では、47000hitありがとうございました! |
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