君に 愛を 売るよ




 考えてみれば朝から調子が悪かった。
 それに気づかない振りをして押し通そうとしたのが朝、一人目に見破られたとき。「やばいっスよ変な顔色してますよ」などと失礼なことを言い出すのでとりあえず陥没させた。ほんとに病人ですかあんたと文句を言ったので少しばかり武力行使に出ようとしたら全力で謝られた。無事にスルーだ。第一関門突破。
 次の関門は上司だったがこれがまた何と言うこともなかった。おそらくまったく気づいていない。なんて男だ。普段の気配りはどこにいった。それとも自分が女としてカウントされていないということだろうか。それはなんて素晴らしい。
 その後は関門も何もなく、結局早退もせずに帰ってしまった。さすがに残業は避けたのだが。
「…何しに来たんですか」
「君に会いに」
 頭痛がする。めまいもする。今すぐ倒れてしまいたい。
「私はとても会いたくなかったですけど」
「そう言わないでくれたまえよ。実は今夜もデートの予定が入っていたのだが先方が急に都合が悪くなって」
「要するに暇になった挙句に誰にも相手にしてもらえなかったんですね?」
「そういうことだ」
 そこは頷くところではないだろう。まったく、なんと情けない。
「ではもう会いましたから満足ですね。帰ってください」
「君はどうしてそうつれないかね」
「つれたくないからです」
「のめり込みそうで怖いとか?」
「誰がですか?」
 頭痛が段々酷くなってきた。寒気もする。このままベッドに直行して眠りたいのだがこの男がここにいる限りそれもかなわない。
「いいから早く帰ってください」
「だから何故。もうちょっと構ってくれてもいいだろう」
「構いたくないんです」
「理由を言いたまえ。あ!まさか男が」
「来ませんよ」
 本当にどうしてくれようか。とりあえず体調が回復した暁には仕事を倍にして押し付けてやろう。この際だ、三ヶ月先までの仕事を全部終わらせてやる。
 いい加減なことを考えていると本気で倒れそうだった。
「とにかく、帰ってください」
 顔をあげるとロイは納得がいかないと言った。納得なんかどうでもいいのだ。ただ帰ってもらえればそれでいい。
「……君」
 今ごろ何かに気づいたように彼はリザの額に触れる。
「熱がある」
「だから帰れと」
「早く言え!」
 勝手に上がりこまれ勝手にベッドに連れて行かれる。上がりこんだということは看病でもするつもりだろうか。手早くベッドに寝かされただけでさっきよりは随分と楽になった。
 ロイはタオルを濡らし氷を用意した。この家に何度か来ていて本当によかった。彼も病人を見過ごしてすごすご帰るほど薄情ではない。それが大事な部下ならばなおさらだ。
「貴方にだけは知られたくなかったのに」
 悔しそうに顔をしかめてリザが言う。顔も赤いし汗もだいぶ酷い。そんな状態で何を言われてもちっともこたえない。それはそれで物足りなかった。
「こんな、情けない…」
「それは私に面倒を見られるのが情けないということかね」
「それ以外の何なんですか」
 これは困った。重症だ。これからが非常に思いやられる。将来的に、誰が自分を幸せにしてやると思っているのだろう。
「まあいいさ」
 ロイはリザの額に濡れタオルをのせた。
「これは貸しにしておく」
「貸しの間は利子がどんどん溜まっていくんですね…」
「そう。トイチだから覚悟したまえ」
「…悪徳」
 この男に期待するのが無駄だっただろうか。
 この女に願望を持つのが間違いだっただろうか。
 どちらにしろ最低最悪には違いない。
 結局同じ結論に達した二人は気づかれないように同時に溜息をついた。




 



 *POSTSCRIPT*
 風邪っぴき中尉。大佐は鈍感とかそういうの通り越してるので気づきません。アホだー。



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