恋する愚か者




 私は愚か者ですので人に気を遣ったりなんかしやしません。では何をするのかと言えば独占欲に駆られてあの人に執着してばかり。そのためなら多少のことなど忘れましょう。忘れましょう。
「ああ…」
 大佐はうつむいて呟きます。あまりに恍惚としているものだから妬けました。何に妬けたのでしょうか。ここには私と彼と、二人しかいないのに。
「…極楽…」
 私は温泉か。
 今揉んでやっている肩に銃口を突きつけたら気分は多少良くなるかしら、と、ちらりホルスターに目をやるけれど、無駄なことだと思い直してやめました。きっと大佐は動じません。絶対にそこから弾が出ないことを知っているからです。いつも後手に回ってばかりなことがいらだたしく思います。
「大佐、ずいぶん凝ってますね。大丈夫ですか?」
「おや、君に心配してもらえるとは嬉しいね」
「何故ですか」
「悪化しそうなことをいつもさせられているからかな」
 大佐はその一言がどれほど私に衝撃を与えているかなんて考えもせずにさらりと言ってのけます。なんて酷い男。
「そうですか?」
「そう思うならもう少し仕事をだね…」
「成り上がりはワーカホリックと相場が決まっています」
 大佐は笑って、それもそうだ、と言いました。
 私からは彼の顔が見えません。本当はどんな顔をしているのかが分からない。それは彼も同じだけれど。二人してこんな風に笑っていられるのならどんなことをしてもいいと思います。けれど、それが擦れ違いであったなら。勘違いであったなら。
「不安…」
「何がだ?」
「いえ、何でも」
「言いたまえ。気になるじゃないか」
「いえ、本当にたいしたことではないので」
「いいから」
 不安なのは勘違い。それからもう一つ。
「あまりに疲れてらっしゃるようなので」
「まあ、そうだな」
「体力も落ちているようですし」
「…否定はせんよ」
「年ですか?」
「……かもしれんな」
「夜遊びもできなくなるかもしれませんね」
「火遊びができれば十分だ」
「それもできるかどうか」
 大佐の反論がぴたりと止みました。今までやかましいくらいにオーバーに答えていたというのに。体重が減っても体力が落ちてもこれだけは減らないと思っていた口が減ったことに少し驚いて、私は大佐の肩から手を離しました。
「…大佐?」
「ホークアイ中尉……」
 大佐が急に私の手をつかんで握り締めました。
「本当にできなくなったらどうしよう…!」
 本当にこの人でいいのかしら。
 自問自答を繰り返しますが私の答えはいつも一つなのです。
「喜ばしいことですね」
「中尉!」
 まったく、心から喜ばしい。彼が他の女から相手にされなくなるだなんて。幸せだ。余分な仕事も増えないし余計な嫉妬も買わなくて済む。第一、
「君はそれでもいいのか」
 第一、彼を独り占めできる。
「ええ、もちろん」
 大佐はこの世の終わりだと嘆きますが、早くその日が来ないものかと私は願ってやみません。
 私は愚か者ですので優越感を覚える瞬間が好きで仕方ありません。ではそれが何時なのかと言えば独占欲に駆られてあの人に執着する時ばかり。そのためなら多少のことなど忘れましょう。忘れましょう。



 



 *POSTSCRIPT*
オールディーズの洋楽のタイトルはやたら「恋の〜」やら「愛しき〜」とか「悲しき〜」ばっかりですね。そんなイメージのタイトルなんですが内容とは裏腹ですかねこれ。
というかそれ以前の問題でこれがラブラブの範疇なのか。いやいや、ラブいよラブい。当社比だけど。え、そうでもない?いやいやいやこんなにリザちゃんが増田を思ってる小説ほとんどないようちには!(きっと)



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