告白未遂




 ああ失敗した。ウィンリィは小さく舌打ちして己の指を見つめる。こんなミスをするのは久しぶりだ。少しだけ、少しだけ傷ついた皮膚からはぷっくりと赤い球が浮かび上がる。血だ。
 それを舐めとって指ごと口に含むと、鉄の匂いが口の中に広がった。あまりいいものではないその味とにおいに顔をしかめる。いくら鉄やら何やら、金属が好きだからといって食べたいとは思わないし舐めてしまいたいとも思わない。
「錆びてなくて良かったわ」
 ひとりごちてみると余計に虚しさが増した。今、ここには誰もいない。エドワードとアルフォンスは二人して町に出かけてしまった。何か企んでいるようにも見えたけれど気にしないようにする。気にしないことは今のところ自分の義務だ。知ってはいけない。知ろうとしてはいけない。そこは、自分の居るべき領域ではない。肌で感じ取りながらも、それがもどかしいのが真実だ。
 放っておけば血はすぐに止まった。傷口に念のためテープを貼る。消毒し忘れたけれどこの程度ならばどうなることもない。
 エドワードとアルフォンスは出かけている。だからウィンリィは今一人きりだ。ただ、目の前にはエドワードの腕がある。脚がある。彼女が作った機械の手足が。
 本当は待つのなんて嫌いだ。得意じゃない。
 本当は知らないということが嫌だ。不安になる。
 本当はいつも逃げ出したいと思っている。そうすれば楽になれるような気がするから。
 けれどいつも思うところとは逆のことばかりしている。思うに、自分は不器用なのだ。だから待つことしかできないし、すべてを知らないままで、それが幸せだと思われてしまうし、逃げることもできない。
 大事なものを守るために選んだ道であるのに、それはあまりに険しすぎた。
 ウィンリィはそっと機械鎧の腕を持ち上げた。ベッドの上に腰掛けて、膝の上にのせる。じんわりと血の染みているテープごしにその指をなぞる。それから手のひら、手首、肘を通って二の腕へ。肩口の付け根に辿り着くころにはテープがめくれ上がってしまっていた。後できれいに磨かなくては、ぼんやりとどうでもいいことを考える。余計なことを考えている分には傷つくこともない。
「…バカ」
 腕は冷たかった。当然だ。機械なのだ。血が通っていないのだ。
「大バカ」
 それをひたすらに苦しく思う。彼が必要とする腕なのに。こんなものなければいいのにとさえ思う。
「エドのバカ」
「アホ」
「ドチビ」
「豆」
 きっとこんなことを思うのはエドが今ここにいないせいなのだ。そうに違いない。一人になんかするから、こんな変なことを考えるのだ。
「……好き」
 ウィンリィはエドワードの腕の肩口、体と腕が繋がるそこにキスをした。心が壊れてしまうのではないかと思うくらいに心臓が早鐘を打つ。それに抗う術は、この世にはないのだ。



 



 *POSTSCRIPT*
 自分で書いておきながら時間軸がわかりません。うー、あー、いつでもいいです…(出直してきたらいいよ)そしてエドウィンなのにエドが出てきません。



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