これからのすべて




 びっくりするくらいの晴天だった。晴れて良かったわね、なんていうもんじゃない。突き刺さる日射しが痛いほどだった。
「すごい。熱中症になる人が居そう。夏木さん実は晴れ男でしょ」
「言われたことねえよそんなの。俺より望だろ、晴れ女」
 考えてみたら二人で会う日が雨だったことはごく少ない。初めて会ったときも、天気ばかりはただただ良かった。
「不思議だなあ」
「縁起いいな。晴れの日に晴れ。冬原ん時は雨だったんだよ。どしゃ降りで」
「え、聡子さん大変だっただろうなあ。髪のセットとか湿気で」
 自分たちがいかに濡れたかを語ろうとしたところで望は言った。女は着眼点が違う。
「でも新郎の冬原さんかっこよかっただろうね」
「新婦の親戚とか友達にモテてた。でもあいつは奥さん以外に興味ねえから」
「想像つくなあ。良いお式だった?」
「そうだな。それはもちろん」
 ウェディングドレスの望は夏木の腕を抱き締める。 「今日も、良い日にしようね」
「冬原に負けないくらい?」
「こういうのは優劣じゃないの。あたしたちがどれだけ幸せかよ」
 夏木は望の頭に手を乗せようとして止めた。せっかく綺麗なのに、崩してしまったらもったいない。
「…これから苦労させると思うし、心細いこともたくさんあると思う」
 望が顔をあげる。いつもの三割増しで美人だった。普段も美人なので相当だ。
 ああもう、心臓に悪いなこん畜生!
「お前が俺のことを嫌になる日がもしかしたら来るかもしれない」
「それは絶対ない!」
「いやだからもしかしたらだって!」
 望は更に言い募ろうとしたが、今は夏木に譲ってくれるのだろう、口を閉じた。
「もし、そんな日が来たとしても、俺は絶対に望のことが好きだから。何があってもどんな時でも、絶対好きだから。それは疑うな」
 お化粧しちゃったから泣けない、望がぼそりと呟いた。
「あたしだって同じよ、バカ」
 望の一言に笑うしかなかった。一生だ。これから先のすべての時間目一杯使って大事にする。
 今なら愛してるの一言が言えそうな気がしたけれど、やはり刃物がなければ無理だった。












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