夜の魔物




 放課後の廊下ほどさびしいものは無い。教室にはまばらな人影すら無い。下校時刻になれば部活で残る生徒たちも全員帰る。もともとこの学校自体部活動が活発でないせいだろうか、生徒たちは素直にさっさと帰る。名残惜しそうに居残る生徒はあまりいない。きっと楽しみは学校の外にあるのだろう。
 仕事はまだまだたくさんあった。研究授業が控えているせいで寝不足でもある。眉間には自然に皺が寄った。今日はもしかしたら家に帰れないかもしれない。
「帰りたい…」
 望みをこめて呟いてもそれは冷たい床や壁や窓に吸い込まれて消えてゆく。外はもう暗い。さっさと準備室に戻って仕事にかかるのが賢明だ。
「ホークアイ先生」
 後ろから声をかけられてリザは振り返る。
「マスタング先生。お疲れ様です」
「お疲れさま。もう帰るんですか?」
「いいえ、まだ仕事が残っているので」
「ああ、そうか。それは大変だ」
 彼はにこやかに話をする人だが信用はできない。何故なら彼は産休の化学教師の代わりにやってきた講師であり、授業が終わればさっさと帰れるはずの講師がこんな時間まで残っていることはおかしいからだ。彼はいつも残っている。何のためなのかは知らないがけったいなことだ。
「仕事を家に持ち帰っては?疲れているようですよ」
「それができたら比較的楽なんですけれど。出来る限りは学校でやってしまいたいんです」
「真面目だな」
「家に帰ると寝てしまいそうで怖いだけですよ」
「充分真面目です」
 人を真面目と褒める彼は何なのだろう。ふざけている風にも見えない。これが演技だったならそれはそれで、食わせ者だ。
「マスタング先生はどうしてこんな時間まで?」
 彼はその問いを意外そうに受け止める。にこやかに口だけ笑って。不穏だ。言ってはいけないところに踏み込んでしまったのだろうか。
 隣を歩いている彼から一歩遠ざかる。嫌な予感がした。
「ホークアイ先生は鋭いですね」
「何が…」
 にこやかに笑う彼から目が離せない。腕をとられた。すぐそこのドアの中に連れ込まれる。叫びださないようにだろうか、口をおさえられた。
「知りたいですか?」
 ねえ先生。ロイの低い声が耳朶に染みとおる。ぞくりと背筋が唸った。
「…教えてあげますよ」
 教壇の下に押し込まれた。口はもうおさえられていない。塞がれていた。舌を絡めとられて卑猥な水音が響く。スカートなんかはいてくるんじゃなかったと思ってもすべては無駄になった。頭の中で何かが爆ぜる。世界は不条理でできている。
 リザはロイの背中に腕を回した。
 



 



 *POSTSCRIPT*
 生徒の帰った後の廊下とか教室とかっていうのは人のいた気配はあっても実際には誰もいないので妙に静かです。静かなのに何か居そう。いや幽霊とかそういう話じゃなくて、雰囲気がそんな感じ。講師の先生って授業のときだけ来て授業終わったら帰るんですよ。いいなあ。その点教師は学校に泊まりもするし夜遅く朝早いし担任持ってたらまた大変だし。教育実習生がいたらとんでもない。更に研究授業を抱えてたりする先生はすごいですよ。ほんと忙しそう。学校の先生っていうとみんな寝る暇も惜しんでってイメージがあります。その割に子どもは問題起こすしね。しんどいよね。財布なくなったりケンカしてたり携帯なくしたりしょっちゅうですよ。お前らあたしがいた3週間でどんだけ問題起こすんだっていう。授業中にケンカされたときはどうしようかと思いました。あれか、ぶん殴って止めて欲しいのか(いけません)
 おっと熱くなりすぎた。先生って大変なんですよって話。そんなところに増田みたいのがいたら泣くね。泣くっていうか訴えるね。



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