ANTI 「ミスコン?」 リザは厳しい顔をして振り返った。まるで苦いものでもつい食べてしまったかのような、そんな表情だ。 「そうです。ミスコン」 ああやっぱり。こうなると思った。ハボックはため息をつきながら言った。 「それは何?」 「やるんだそうですよ」 「どこで?」 「ここで」 「…本気?」 彼女の困惑は当然のものだった。ここは軍隊。国軍だ。しかもここは東方の治安を守る東方司令部の中枢も中枢。そんな、地方政治の要がミスコンだなどと―― 「俺が言い出したわけじゃないんです。まあそういうのがあってもいいかなとは少しは思いますけど。ああ、だからといって賛成なわけでは」 「ミスターレディコンテストなのね?」 やるにきまっているのだ。 世の中には『鶴の一声』なる言葉がある。先人の言葉に頷くことは多々あれども、今回ほど身にしみたことは今までになかったのではないかとなんとなく思う。 そう、まさに鶴の一声。最初こそそれはマスタング大佐であったが、自然にリザ・ホークアイ中尉の方に移行した。もちろんホークアイ中尉はマスタング大佐の部下だ。下から上へ、ということはあっても上から下へ、というのはすこぶる珍しい。おそらく他に類を見ないことはあきらかだ。ここに男と女の相関図めいたものを垣間見た気になってしまうのは当然であると言い切れるものかどうなのか。 「何でこんなことになったんだ」 ミスターレディコンテスト反対主義者は確実にいる。というか男性職員一丸となってデモを起こせる。嫌だ。 「ミスコンなんて言い出すから…」 「私のせいだというのか!」 マスタング大佐が吼える。 「他の誰のせいなんスか!」 ハボック少尉が叫びだす。 「そもそも中尉に出てもらおうっての事態が間違いだったんですよ。ありゃあ無理だって」 ブレダは諦めきったように言う。 「いやしかし中尉が出ないことには下の女性職員が出てくれないかもしれないではないか」 「逆に出なくなりますよ中尉がいたら」 当然だ。上司が出ているミスコンに出場なんてことができるわけがない。女は計算高いのだ。どうすれば得でどうすれば損なのかくらい考えている。 「それかセクハラだって騒ぎ出す神経質な女が多分何人かいるんじゃないですかね。中尉もその口かと思ったのに」 「彼女はあれで寛容なんだ。そういうことに」 「…大佐もお祭り好きなとこありますもんね」 「お祭り好きなのは私じゃなくてヒューズだ」 三人はいっせいにため息をつく。 男が三人集まってこんな会話をしていても不毛なだけだ。だってミスコン。とにかくミスコン。たしかにミスターレディコンテストの略でもある。しかしこの場合は違うのだ。断じて違うのだ。 「ハボック!お前が最初からちゃんとミスコンテストだという話をしなかったから悪い!略すな!」 「だってこんなことになるなんて思ってなかったんだからしょうがないでしょうが!じゃあ大佐が言ってくれればよかったでしょう!」 「私が言ったら中尉は反対するんだ!」 ロイの心の叫びに、ハボックは黙り込んだ。ブレダも黙ってロイを見ている。 「何だその目は」 「いえ別に」 別にと言いながらも目は物語っていた。 (切ねえ…) 「もうばっくれたらどうですか。中止だっつって」 「そうしたら金輪際ミスコンができなくなる」 「だってもうしょうがないじゃないですか。やるんですか?女装」 「やらない」 「は?でも…」 「私はやらない」 ロイの居直り方はまるで子供のようだった。こんなのの相手をするのはもう嫌だ、と心の底からハボックは思ったが黙っていることにした。同じく訝しげな顔をしているブレダと目を合わせた。 「どうするんで?」 ブレダが尋ねる。ロイはふふんと笑って答えた。 「審査員になる」 それは名案だった。しかしおかげで直属の部下四人はもれなく被害に遭うことになり、女装をして名前を変えた。審査員長であるロイ・マスタング大佐を筆頭に審査員は女性職員が並んだ。審査をしながらロイは自分の選択が正しかったことを確信したことは言うまでもない。 そしてこの時の名前――すべてロイが名づけた――が後々彼らのコードネームになるだろうことは、今はまだ誰も知らない。 |
*POSTSCRIPT* あれ、ロイアイじゃなくなっちゃった…あ、あれ?い、いやでもロイアイだよあの大佐が話したら中尉は反対しちゃうとことか。そうでしょうだって大佐が言ったらリザちゃんは妬いちゃうから「それはセクハラです」って言って反対するんだよ。そうだそれでいいじゃん。ロイアイロイアイ。ね。(いささかこじつけにすぎるような気もしないでもないけれどー) |
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