盲目的カニバリズムの法則
The low of blindly CANNIBALISM




 男と寝るのは大して好きではない。ただ自分は女なのでやらねばならないときがある。だからといって女と寝るのが好きなわけではけしてない。
 嫌ならやめればいい、最近の世相は『そういうこと』を好まないということは重々承知しているが、自分たちのしていることは商売だ。そして商売とは客に媚を売る必要がある。女の体が商談に付随すると思っている馬鹿もいる。馬鹿者は馬鹿らしく馬鹿に生きるしかないのだ。それがどうしてまかり通るのか、そんなことは決まっている。それは周囲の優しさと憐れみと蔑みだ。
(噛み切ってやろうかこの棒っきれ)
 陸奥は淡々とそんなことを考えた。実際問題噛み切ったら自分が嫌な思いをすることになるのだが、とてもいい考えに思えた。
 苦しいのは好きではない。汚いものを口に含むことに抵抗感が無いわけがない。それでもしなければならないからと割り切って我慢する。
(顎が疲れた。舌が痛い)
 歯があまり触れないようにするのは難しい。しかもこれはひどく疲れる。
 どうしてまた男というものはこんなことを人にさせる気になるのだろうか。誰とも知らない女の口の中に大事なものの命運を握られるのだ。脅そうと何をしようと、口に入れてしまえば形勢逆転、男はそこで自分が負けたことに気づかない。その瞬間、彼のそれは危険で丈夫な歯の生え揃った天然のギロチンにかけられているというのに。
 首筋を汗が滴り落ちた。歯を立てるくらいならいいのではないかと思った。息が荒くなる。そう、今自分は興奮している。


 陸奥が知る限り口の中に一番無頓着である男を高杉晋助という。
 彼は何も考えずに(いるようにみえる)、できるものならやってみろとばかりに舐めさせる。
「女の歯なんざ怖かねえよ」
 陸奥に答える余地がないときに限って高杉はそんなことを言う。嫌味な奴だ。
「もっと怖えもんをいくらでも知ってる」
 それもそうだ、何も言えないまま続けていたら髪を乱暴に鷲掴みにされて顔を上げさせられた。思わず眉間に皺を寄せた。
「お前もどうせ涎垂らして喘ぐただの女だろうがよ」
「おんしも咥えられて喜ぶただの男じゃろうが」
「違えねえ。どうせ本当は好きなんだよ。嫌だ嫌だと思い込もうとしてるだけだ」
 ここまでくるとこの男は侮辱以外に女の扱いを知らないのではないかと思えてくる。
「本能に従えねえ女なんかつまらんだけだ」
「わしが短気じゃったらおんしは今ここで撃たれちょるぞ」
「ほう、てめえ気が長い方だったのか。それは知らなかった」
 侮辱だ。
「高杉」
「殺してみろよ」
 殺せるか馬鹿。
 高杉は陸奥の脚に手をかけて開かせた。
「これだけ濡らしといてよく言うぜ」
 男というものはそれしか知らないのか。
「俺だっててめえを壊してやれる」
 貫かれた瞬間、殺してやりたいと思った。声を噛み殺していると口を無理やりこじ開けられた。そこにやたら性急で乱暴な口付けが降ってくる。舌を噛まれるのではと思うとぞっとした。しかししばらくするとそんなことを考える暇もなくなってしまった。殺したい殺したい殺したい殺したい――食い殺したい。食って。
 思いつくのは簡単だ。実行 も 簡  単  。
「男と女ってのはそういうもんだ」
 高杉は嘯いた。


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