なみだすること




 あなたのために涙すること。
 それはきっと無駄じゃない。


 息を飲んだ。
 その後、大きく深呼吸。
 それと同時に襲ってくる疲労、憤慨、そして嫉妬。
「・・・・・・おはようございます」
 声を――
 声を、絞り出すだけで精一杯だった。

「ああ、おはよう」

 しれっとした顔で、奴は言った。
「くま」
「は?」
「目の下に隈ができてますよ。また仕事溜めて中尉に怒られた挙句に残業ですか?よくやりますねー」
 ロイはハボックに、してやったりというように口の端を持ち上げてみせた。
「野暮なことは聞くものではなかろう」
 ああ、なるほどそういうこと。
 相手が別の人間である可能性は微塵もない。この男は、内心自慢したくて仕方がないのだ。そして、俺を嘲笑いたくて仕方ないのだ。
「よくやりますねー。俺らは大忙しなのに」
「余裕とは作るものだろう」
 相手も近くにいることだし?
「・・・・・・おみそれしました」
 本当だ。おみそれしました。
 どうしてこうなるのだろう。考えてみても、答えは一つだ。彼女の大事な人とやらがこの男だから。そいつがどんなに嫌味でどんなに性格悪くてどんなに浮気性でも、それが彼女の大事な人だから。
「いいっスねー」
「いいだろう」
 ああ悪かったな、わかってるよどうせ。
   この男に会う前に、妙に疲れた様子のホークアイ中尉を見てしまったから、とそれだけじゃない。二人の間に流れる雰囲気はそのまま、彼女の袖口からかすかにのぞいた手首に赤い跡が残っていたことや、この男のいかにも満足そうな顔とか、そんなことも関係無い。
 ああ悪かったな、わかってるよどうせ。
 ただ自分の情けなさに怒りが込み上げるばかりだ。
 けれど。
 けれど、あなたのために涙すること。
 それはきっと、無駄じゃない。
 いつかのために。
 自分のために。
 不甲斐ない男どもにほんの少しの救いと愛を。

 




 




 *POSTSCRIPT*
 35000hit獲得の速瀬恵さんからのリクでロイアイハボ。
 ・・・・・・大変だ!中尉が出てない(死)いやなんか書き進めていくうちに入れるところがなくなって中尉なしの男二人になってしまったのですがいやはやなんとも。
 えー、こんなのでもいいですか?

 35000hitありがとうございました!!



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