何も要らない 元々誰かを傷つけることは嫌いではなかった。そうすることで自分が傷つくことをよく知っているからだ。ああこんなことで痛む心があるだなんてなんてご立派なことだろう。そうだ、まだ人間だ。まだ大丈夫、人の心を持っている。そう思えるのは嬉しかった。 「『人の心』とは何ですか」 今までにそう問うたのはこの融通のきかない忠実な部下、リザ・ホークアイのみだった。 まず親友は「お前偉そうだな」と苦笑した。周りにいた姦しい女達は「かわいいひと」と言った。しかし女達はきっと腹の内でなんて嫌味な男だと毒づいていただろう。「かわいいひと」そのフレーズが出る前までの数秒の間は確かに呆れていたのに気づいていたからだ。それにさえ気づかずに男なんてチョロイものと密かに話す彼女達は愚かでいい。 「あー・・・まあ、一般的な心情というかなんというか。ほら、例えば何か悪いことをしたら罪悪感を感じるだろう、あれだよ」 「悪いことをそもそもあまりしませんから」 嘘つきめ。 彼女は何だかんだで用意周到だ。そして人を罠にかけて知らずいたぶる。 「あまりというところが実に気になるね」 「あらそうですか?私としては大佐がそんなことを言い出すことが気になりますけど」 このことは特定の誰かに言うわけでもない、話の種が無くなったときしぶしぶ出す程度の話題だ。 「そう気にすることもないさ」 話のつなぎには自分の話をするのが一番いい。それがあんまりな内容であれば誰も突っ込んでこないしそれが嘘だとしても心情面の話だ、誤魔化そうと思えばいくらでもできる。 「傷つけるというと物理面をすぐに思ってしまうから」 リザは静かに呟いた。 確かに、物理的に傷つけてしまったらそれは大した性癖の持ち主だ。 「君は意外と大胆だな」 「は?」 「いや別に」 ロイはしれっと答えて書類の消え去った机にうつぶせになる。 今日の仕事はそろそろ終わりだ。 「大佐」 リザはファイルを机に置く。 片付いたと思っていたがまだ残っていたのだろうか。そうなると厄介だ。この後デートが控えている。 「今日残業はごめんだよ」 「いえそうではありませんのでご心配なく」 「・・・それは逆に怖いな」 それを聞いてリザはにっこりと笑う。 あまり見せない笑顔に戸惑いつつもこれから何をされるかわからないと思うとやはり怖い。 「何が言いたいんですか」 にっこり笑顔は消えてしまった。もう限界だったらしい。 「何が?」 「ええ」 「別に、そのままの意味だよ」 「嘘でしょう」 問い掛けではなく、確認。嘘でしょう。 「・・・何故?」 「何でもないのにこんな話してどうするんですか。それからその顔。辛気臭い顔はやめてください」 いつの間にか眉間に皺が寄っていたことに今気づいた。 「笑っているつもりだったんだが」 「作り笑顔なんて気持ち悪いだけですよ。貴方の場合」 「君も大概言うね」 これには少しかちんと来た。来たところで何ができるわけでもないのだが。 「君もいつまでもそんな顔をしていないでもっと笑えばいいんだ」 リザは不思議そうに眉根を寄せる。 ロイは机に置かれた彼女の手をとった。その甲に口づけるけれど、彼女からは何の反応も無い。 「要りません」 「は?」 ロイの手の中から逃れようと、彼女は手を引く。しかしロイは呆れつつも逃がさない。 「どういう・・・」 「貴方がこの先のし上がるために、下手に表情豊かにする必要はありませんから。私は軍人です。そのために必要でないことは何も」 なおも離してくれと言わんばかりのリザをロイは力づくで抑える。 「何も、要りません」 絞り出すように、リザは呟いた。 「君はそれでいいと?」 「・・・はい」 「本当に?」 「はい」 もしかしたら自分は彼女の忠誠を見くびっていたのだろうか。そうだとしたら大問題だ。そうではない。そうではないと、信じたい。 「リザ」 「名前で呼ばないでください。勤務中です」 「勤務中でなければいいのかね、ホークアイ中尉?」 「いいえ。貴方が私をファーストネームで呼ぶ日なんて来ないでしょう」 そんなことがあってはいけないのだ。彼女は決然と言い切った。 「・・・手厳しいな」 手を離さないでいてよかった。 くしくもこの手の中にあるのは彼女の左手。 とりあえず少しでも足掻くために左手薬指にキス。 何も要らないなんて言葉は二度と言わせないようにしよう、と心に決めた。 |
*POSTSCRIPT* 80000hitゲットの未早さんによるリクエスト、ラブラブなロイアイ。 大変遅くなりまして申し訳ございません。 ・・・・・・ラ、ラブラブ? すすすすいませんうちの大佐と中尉は何かと手厳しいので(最近)がんばったけど甘くないかも・・・!(すごいダメ) ではでは、80000hitありがとうございました! |
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