おうまがとき




   放課後、廊下を歩いていると、先生とすれ違った。最近やって来た新任の先生。大学を出たばかりだったと思う。若いなあ(私のほうが若いけど)
「あの、ちょっと」
 その先生は、少しためらうように私に声をかけた。
「はい?」
「・・・・・・っ」
 何か言いたそうだけれども、さすがに私にはその内容まではわからない。
「なんですか?」
「し・・・」
 し?
「・・・視聴覚室ってどこかな?」
 ああなるほど、言い出しにくい。新任だしね。しょうがないしょうがない。・・・けど。
「ここですけど」
 私は自分の隣にそびえる引き戸を指差した。
 新任だからしょうがないというよりあなたただのボケでしょう。
「あ・・・ありがとう・・・」
 そりゃ気まずいよねえ。しょうがないしょうがない。
 ああ、すごい恥ずかしそう。
 体の大きな男のひとが、私の前で照れている。
 なんだか不思議な感じがした。
「どういたしまして」
 ああ、このひとかわいいんだわ。


 夕暮れの灯が窓から照っている。
 落ちるオレンジ。
 彼の顔が真っ赤に染まって見えた。


「先生」
 魔が差した。
 声をかける気なんて、ついさっきまでなかったのに。
「こういう時間帯のこと何て言うか知ってます?」
 少しだけ考えて、先生は答えた。

「逢魔ヶ刻」

 おうまがとき。
 ねえ、先生だからわかりますよね。
 魔が差したんです。


 だから。
 私は。
 あなたに。





 




 *POSTSCRIPT*
 授業中にこそこそこんなもん書いてるあたり自分もうダメな気がします。



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