道化の涙
Pierrot`s tears




 手を伸ばしても届かないものを求めたことがあるか、と問われればそれには是と答える。はたしてそれを得たかと問われればそれは否としか言えない。後悔はしていない。足掻いている自覚もある。どうにかならないとは思わない。世の中というのは意外と脆く、一つが覆りさえすればあとは芋蔓式なのだ。それを学んだのは幼いころ。実際はそうともいえないということに気づいたのは数年も昔。やりようによるのだ、と知ったのは最近。
 高杉は目の前で何か書き物をしている女を見た。 「俺を馬鹿者だと思うか」
 陸奥は目を伏せてなかなか答えない。
「陸奥」
「…いいや、おまんはただの夢想者じゃ」
 陸奥は難しいことは言わない。何でもかんでも単刀直入だ。それがこの女の本質でもあるのだろうし、坂本相手ではそうでないとやっていけないのかもしれない(それが少々どころでなくかなり不愉快に思うのは何故か)
 陸奥は茶を飲んでいる。高杉も茶を飲んでいる。お互いが自分のことに没頭すれば会話もない。それは心地よいことだった。邪魔をされない。ただそれだけのことだ。一つ部屋があり男女がいればと邪推する者もあるが(それは主に坂本のみだ)こんな時間の方が長い。
 自分たちは信じあっているのでも馴れ合っているのでも依存しあっているのでもなく。
「夢で終わると思うか」
「夢なら覚めるじゃろ」
 覚めない夢があってもよさそうなものだ。そう言うと陸奥はそれ見たことか、と笑う。
「道化にはなるなよ」
 陸奥はそう言うがそれは到底無理そうだった。


 どうせ己は道化だ。


 



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