リアリズム




 強い酒は好きじゃない。
 あの喉が焼け付くような刺激はどうにも我慢できない。それから飲みすぎたときによくある倒れそうになるほどの眩暈。実はアルコールの匂いもそれほど得意ではない。
 昔はよく美味いとも思わなかったが飲んだ。思春期独特のささいな反抗だ。そう信じている。
 今までで一番美味かった酒は戦場で汗まみれ埃まみれになってようやく軍の駐屯地に帰ってきたとき、そのときに飲んだビール一本だ。なんでもいいから飲ませてくれと言ったらそんなものを出された。非常識にもほどがあるのではないか。しかしそれは最高の贅沢でありどんな美酒にもひけをとらない、とそのときは本気で思った。
 しかし今は違う。
 そのことが本気で残念だった。


 彼女は実のところ酒好きだった。
 以前は好きではないと言っていたが、飲ませれば飲めるということもあってどんどん飲むようになっていった。今では立派な酒豪の完成だ。そして酒を出されて飲んでいくうちに、段々美味しいもののように思えてきた。結果の酒好きである。きっと誰にも止められやしない。
「・・・・・・」
 だからこそ彼も見ているしかなかったのだ。彼自身は酒がそれほど得意ではなく酔って何かしでかすのが恐ろしかったということもあって、不幸なことに正気だった。そういう意味では間違いなく彼女も正気だ。
「いいですか?大佐は東方司令部の実質的な最高権力者なんですよ?実際は違いますけれども!」
 実際は違う、というところを強調するあたりに恨みがこもっている気がする。
「そんな人がどうして仕事をサボるんですか。どうしてそんなに警戒心がないんですか。どうして節操がないんですかっ!」
 とりあえず最後だけは関係がないと思う。いや思いたい。
「中尉、そろそろやめたほうが・・・」
「まだまだ言いたいことはたくさんあるんです」
 死刑宣告をされたときはこんな気持ちだろうか。妙に安らかだ。
「何で飲みに来て説教されなきゃならないんだ・・・」
 それは彼女がアルコールで激しやすくなっているからだ。心のどこかで自分が答えを言っている。もっといい方向の感情が表に出てきてくれればいいのにとは思うのだがこれも自業自得というのだろうか。
「貴方の普段の行いが悪い証拠です」
 ああやっぱり。
 しかしそうでなくともきっと彼女は怒るのだろう。
「もう止めておいた方がいい」
「大佐」
 これ以上は飲まない方が体のためでもある。明日仕事ができない状態にまでなってしまうのは軍人として失格だ。
 それでも彼女はグラスを手放さない。意地になっている。
「なんなら無理矢理やめさせるが」
「どうぞ。できるものなら」
 その言葉を聞いて、何かが切れた。
「そうさせてもらうさ」
 ロイはリザの腕を掴み、顎を持ち上げる。
「何をっ・・・」
 それ以上の言葉さえ挟ませる気もなかった。唇を貪ることに夢中になる。少量とはいえ自分にも酒は入っていた。やめたくない。
 掴んだ腕の先、グラスからは金色の液体が零れている。蜜のような彼女の色。
 離したくない。

 大分長い時間が経った気がする。もしかしたら一瞬であったのかもしれない。
「・・・拭かないと・・・」
 荒い息遣いとともに吐き出される言葉が妙に現実的で滑稽だった。
   



 




 *POSTSCRIPT*
 56000hitタキ子さんのリクエストで「酔った中尉でロイアイ」
 ・・・ここどこなんでしょうね・・・?考えなしがもろに出てます。うーわーどうしよう。

 56000hitありがとうございましたー。 



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