さようなら




 目が覚めて起き上がって伸びをする。
 それがいつもの習慣。
 ベッドサイドの小さなテーブルに置き去りの煙草が一箱。見つける度に嫌な気分になる。
 正確には悔しい、なのだろうけれど、それだけではすまない何かがあるのだ。第一、もともと感情に名前をつけるのは得意じゃない。
 それなのに恋という名前をつけて、一緒にいたいと思う人に出会って付き合い始めた。これが一週間前。
 別れたのは昨日。
 遊ばれたんじゃないのとは友人の談。あいつはそんなに器用でもないわよ、そう言い返したのはわたし。
 夢に仕事に忙しい男なんか好きになるもんじゃなかったのよ。
“異動になった”
 そう言われたとき、普通に「だから何?」と返せなかったのがいけなかったのかもしれない。きっと彼は困るだろうけど、自分勝手になってしまえばよかった。
 泣いて叫んで別れるなんて嫌、とでも言えばよかったかもしれない。
 それでも結局許してくれるのよね、優しいひと。
 起き抜けの情けない姿のまま煙草を一本取り出し、くわえて、火をつける。
 見慣れた動作。
 煙が目にしみて涙がほろほろと流れてしまう。美味しいなんてとてもじゃないけど思えなかった。
 こんなに苦いことを毎日好きでしているのかあの男は。らしすぎてたまらない。
 思い出は涙味だなんて、そんなダサイこと初めて。
 あともう少しだけ、この一本が消えてなくなるまでは、せめて泣きたい。


「あ」
 ハボックは胸ポケットを手で押さえる。あるはずの物がないことに気付いた。
「どうしたの少尉?」
「いや、煙草がなくて…」
 ああ、とリザは頷く。
「この機会に禁煙したらどうかしら?煙草はやっぱり体に悪いし」
「そうできたら楽なんスけどね」
 もう中毒だ。今更やめることなどとてもできない。
 それは自分にとっては幸せだったと思う。きっと死に際にだって最期の一服を求めるだろう。生きるための悪足掻きが少しでもできるといい。
「じゃあ、私は大佐のところにいますから」
「ああ、はい」
 煙草をどこに置き忘れたんだったかな、考えてみる。場所はすぐに思い当たった。
 ああ畜生、思い出すんじゃなかった。
 今ごろ彼女はどうしているだろうか。泣いているだろうか、平然と仕事をしているかもしれない。ただただ怒り狂っていればいいと思う。あのバカ男今度会ったら殴ってやるとか。その時は潔く殴られるつもりだ。それくらいのことをした。
「好きだったんだけどな…」
 彼女の爪を噛む癖も、きれいな手も華奢な肩も。

 さようなら。

 今ここに煙草があれば、煙が目に染みたんだ、と言い訳くらいできたのに。
   



 




 *POSTSCRIPT*
 間違いなく需要ゼロ!!
 ハボック少尉とその別れた彼女の話。
 短いですけどね。二次創作においてオリジナルのキャラを作って話の中に入れるのは好きじゃないんです。いや読むのは読むんですけども書くのが。ものすごい苦手というか思いつかないというか話動かないというか。
 でもまあ今回やっちゃいましたけども。(死)やっぱり話動かない。
 ハボック少尉はあんな奴ですけどもできたばっかりの彼女は大切にしていたに違いない(と思いたい)



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