背中 この人の背中が好きだ。 背骨にそって触れてみる。指先に素肌の感触。がっしりした肩や、形のいい肩甲骨、優しい体温。この背中の窪みに汗がたまって流れるのを見ると、どうにも"たまらない"気分にさせられる。 ホークアイはベッドの中から目を凝らして時計を見る。現在時刻一時三十分。もちろん夜だ。明かりのついていない暗闇の中で、背中の持ち主の鼓動と体温、それから自分の息遣いが妙に際立っている。 彼はホークアイに背を向けて眠っていたわけではなかった。けれど、夜中にただ彼の寝顔を見ているのは息が詰まる。眠れない夜は特にそうだ。寄り添って眠るのは気持ちが良い。しかし、そうしていられない。だからいつもこうやって、相手が寝ている間に心地良いものを手放してしまうのだ。それは心には満足だけれど、体には不満なことだった。代わりに背中を見つめ、触れてみる。彼の肩が少し動いたのに気づかない振りをして、なおも触れる。男にしては綺麗な首筋、実用的についた筋肉。無駄がないということは美徳だと、ホークアイは思う。 「くすぐったい」 くすくすと笑いながら、ロイは身をよじる。 「起こしてしまいましたか?」 「いや、起きてた」 ロイは上半身を起こして体勢を変え、ホークアイに向き直る。 「ならやめさせればよかったでしょう」 「何してくれるのかなと思ったら止められなくてね」 ホークアイは一つため息をつく。いつもの職場でのため息とは質の違う、ああ呆れた、そんなため息。 「悪趣味ですね」 「そうかな」 「そうですよ」 「まあそれはともかく――」 ロイはホークアイの腰に手を回す。 「私はさっきまでこうして寝てたと思うのだが、いつ後ろを向いてしまったんだ?」 「さあ?大佐の寝相が悪いんでしょう」 さらりとかわしてみせるが、これは嘘だ。彼の寝相はとても良い部類に入るのではないだろうか。何しろさっきまで――本当につい先ほどまで――ホークアイを抱きしめて、離そうともしなかった。寝相が良いと言うよりは体がかたいんじゃないか。だからこれはとりあえず嘘。仕掛けたのは、彼女。 「まあそうかもしれないが」 ロイは無理やり納得することで決着をつけたらしい。甘えるようにホークアイの肩口に顔を押し付ける。 「明日は仕事だったか」 「大佐はそうですね。私は違いますけど」 「ずるいな。私も休もうかな」 「だめです。仕事を溜め込んだあなたが悪いんですから」 もし仕事が終わっていたのなら、ロイも休みをとることは不可能ではなかったのだ。 「確かにそうだが……君は私のいない間に帰ってしまうだろう?」 「ええ多分」 「それが嫌なんだ」 自分が彼女を見送るのも嫌だが、帰ってきたら誰もいなかったというのはもっと嫌だ。 「では私にいつ帰れと?」 「いっそのこと一緒に住んで…」 「馬鹿なこと言わないで下さい」 名案だと思った意見が一刀両断されてしまって、やはり少しは心が痛む。 「そんなはっきり言わなくても…」 「一緒に住んでも仕方ないでしょう。家に帰ってまで仕事がしたいんですか?」 「いやそれはちょっと…」 さすがにそれは勘弁して欲しい。 「だが、君がいてくれたら、お互い淋しくないだろう?」 「子供ですかあなたは」 「いいじゃないか。君の大好きな背中も触り放題だし。仕事中そうはいかないしな」 ホークアイは目を見張る。ロイの背中に回した腕が強張るのを感じた。 「あれでバレないと思うほうがおかしい」 もしかしたら、少し顔が赤くなっているかもしれない。電気がついていないことに感謝した。 「憎たらしい人ですね、あなたは」 彼はそれを聞いて、とても嬉しそうに笑う。 その笑い方があまりに素直で、なんというか"たまらなく"なってしまって、ホークアイはロイの顔から目を背けて寝返りを打ち、壁を睨む。 彼はそんな彼女を背中から抱きしめた。 「この背中が好きなんだ」 前方に立ちふさがる背中はとてもとても愛しいもので 寝てる間にキスしたことはずっと秘密にしておこう、と心に決めた |
*POSTSCRIPT* これ多分今まで書いた中できっと一番甘いです(ロイアイの中では)。あー、いいっすね背中。広くてきれいな背中に惹かれます。 それにしてもこの程度なら曝してもいいものかどうか。(曝しておいて何を言う) アウトラインが知りたい今日この頃。 |
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