刹那的リアリズム




 あまりにも、浅見は思った。あまりにも予想外だ。本来ならばありえない。本来が何を指すのか、そもそも本来とは何か。早速混乱してきた。これは何だ何事なのだ。幼なじみ2人の顔が一瞬頭をよぎり、あいつらの仕業かと考えたものの、それはない、と即座に却下した。何しろそのうち1人にとっては実の姉の重大な事態だ。重大どころの騒ぎではない。妙に達観したところのあるあいつもさすがにこの状況は黙って見過ごさないだろう。
「何でこんなことに…」
 浅見は絶望的に呟いた。
「あら、忘れたの?」
 浅見の隣で暢気に寝息を立てていた(と思われた)碧ははっきりとした声音で問い返した。
「…起きてたのか」
「起きたのよ。ねえ、本当に覚えてないの?」
「俺はお前がここで熟睡してる理由がわからなくて混乱してたんですよ碧さん…」
 碧がいたのは浅見のベッドの中だった。要するに起きてみたら添い寝されていた。ある意味鉄壁の防御を無意識に張っている碧とこんなことになるなんて子どものころ以来だ。
「あら、だって夜は眠るものよ?」
「眠るもんだろう眠るもんだろうよ。ただ俺は寝る場所が問題だと思うんだけどな」
「だからそれは昨夜色々あったからしょうがないじゃない」
「いやしょうがないとかじゃなくて、その前の昨夜の色々って何だ」
 碧は目を見開いた。口元を押さえて驚いてみせる。その手が少しだけ震えていた。
「そんな…本当に、本当に覚えてないの…?」
 昨夜→色々あった→気づいたら朝→一つのベッドで男女同衾。
 その方向で考えると行き着く先は一つしか無いのだがそれはさすがに信じられなかった。酒を飲んでも風邪を引いても記憶を失っても、今の自分に同意もなく碧をどうこうする自信は浅見にはなかった。情けない話ではあるが。実際自信どうこうなんて問題ではなくてやりたいものはやりたかったりもするのだが。
「…お、俺が何かしたのか?」
 というわけなのでもしもの話もないわけではない。恐ろしい話だ。
「浅見がしたんじゃなかったら私がここで寝てるはずないでしょう?」
「具体的に一体何が…」
「教えて欲しいの?」
 恐ろしいことを平然と問いかける女、碧。
 敵には回したくないと常々思っていたがこんなことになるとは思わなかった。
「浅見はね…」
「ちょっと待った!心の準備するからちょっと待ってろ」
 何があったんだ俺。何をしたんだ俺。落ち着け落ち着け落ち着け。下手なことはしてないはずだ。してないと思いたい。というかしてたらどうしよう。覚えてないなんてもったいない。いやいやそうじゃなくて。昨夜は酒も飲んでないし頭もはっきりしている。ベッドの中に入ったときのことまで覚えている。そのとき碧はいなかった!
「…いいぞ」
「昨夜は浅見が寝てからちょっと目が覚めて、寝付けなかったから浅見の顔に落書きでもしてやろうと思ってベッドにもぐりこんでみたんだけど」
「………」
「逆にあなたに腕を引かれて離してくれないから一緒に寝る羽目になったの。さあ浅見、『ごめんなさい』は?」
「俺のせいじゃねえじゃねえか!何だその落書きって!」
「鏡を見てみるといいわよ」
 碧はにこにこと嬉しそうだ。嬉しいのか照れているのか楽しいのかどれなのかわからない。
「畜生…心配したってのに」
「だって浅見が離してくれなかったんだもの」
「……悪かったよ」
「謝る必要は無いのよ」
 碧は浅見の頬に触れた。こんなことも小さい頃以来だ。
「そうでしょう?」
 今日はどうしたのか聞いてみたかったが、聞くのは恐ろしかった。この瞬間が現実かどうかを確かめたいと思って頬をつねってみたが痛かった。現実だ。
「都合のいい夢を見てるような気分になってきた」
「あら大変。目が覚めてないの?」
「あーあーそういう奴だよなお前」
 どうせならこの体の柔らかさとか感触とか匂いとかをもっと味わっておくんだった。寝ている間くらいしか大人しくしていないのだから、考えてみれば唯一のチャンスをフイにしてしまったことになる。堪えられたかどうかはともかく。そこは意気地のない自分を信じるしかない。情けないことこの上ないが。
「浅見はどうしようもない人に育っちゃったわね」
 まったくだ。




 



 *POSTSCRIPT*
 浅見さんと碧さん。あたしが書く浅見さんはすべてへタレですが(とりあえず今まで書いたやつは全部へタレだ)今回最高にヘタレな気がします。碧さんに怖くて手が出せない浅見さんとか良くないですか。好きなのあたしだけですか。いやむしろ浅見さんが攻めててもいいんだけども碧さんにハリセンでぶん殴られてそうです。照れて。かわいいなあ碧さん。気づいたら自分が碧さんの歳をも抜かしていることにふと気づく。ああ、そっか…



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