真意の構図 ――疲れているのかもしれない。 そう思ったのは昼休み。今はもう夕暮れ時だ。最近どうもふらふらしているという自覚がある。今までには無かったことだが、仕事量の大幅な増加とそれに伴う睡眠時間の減少がすべてを物語っていた。 「あれ、中尉?」 「ハボック少尉」 「どうしたんですか?顔色悪いですよ」 声をかけてくれる人がいるといのはいいことだ。それでもこういう時、あの人はつくづく気が回らない。 「何でもないわ。ちょっと疲れてるみたい」 「倒れたりしないでくださいよー。大佐の護衛は中尉くらいじゃなきゃ務まらないんですから」 苦笑するしかない。彼の言っていることは真実だ。 「大丈夫よ。そこまで無理はしないわ」 「気をつけてください」 こんなとき、彼は真剣な目をする。自分はそれを知っていて無視するのだ。 「あ、そうだ。大佐が呼んでましたよ」 「大佐が?」 先程処理すべき仕事はすべて渡しておいた。最近には珍しく、期限に余裕のある仕事ぶりだ。 「何か、用があるとか」 嫌な予感がした。 「もう一度仰っていただけますか」 嫌な予感は見事に当たった。この人はどうしてこう。 「だから、今日この仕事をすべて終わらせたんだから、明日は休みが欲しいと」 「今がどんな時かわかっておいでですか?」 「だからこその休息だ、違うかね?」 ――ふてぶてしい。 「なんなら君も休めばいいさ。護衛のことが問題ならうちにくればいい。それこそ私は大歓迎だよ」 「セクハラで訴えますよ」 「・・・それだけは勘弁してくれ・・・」 上司が部下にセクハラで訴えられる。よくある話だ。しかしながらロイ・マスタングの場合、まずは破滅が待っている。 「では、明日は休暇を。最近妙にサボらないと思ってたらこういうことだったんですね」 「まあ、そんなところだ。君が補佐官で良かったよ、ホークアイ中尉」 「こんなことでお褒めいただいても嬉しくありません」 リザは休暇の理由を問いただそうとして、すぐに答えに行き着いた。 ああ、もしかしたら例によって例の如くデートか。 「・・・・・・ふてぶてしい」 「何か言ったかね?」 「いいえ、何も」 リザは思い切りにこやかに笑って見せた。 「・・・・・・中尉」 「何ですか?」 「君は何か誤解を・・・」 「では、こちらの書類を片付けてきますね。せめて定時まではここにいてください」 「いやそれはわかったが・・・」 イライラする。 いつも通りだというのに。彼が休暇の時に必ず誰かと過ごしていることは知っている。長い付き合いだ、そのくらいはわかる。そんなことでこんな思いをしたことはなかった。それが戯れであることを知っているから?それがただの一時の情に過ぎないのを理解しているから?何だかんだいって、彼がここに戻ってくるのがわかっているから? ――虫酸が走る。 まだ何か喚いているロイを置き去りに、リザは執務室を退出する。 一体何が起こったのか。これではただの醜い嫉妬。 ただの嫉妬。 ただの。 例えば彼の付き合うような女みたいに。 気づいた瞬間、倒れそうになった。そして、そこが階段だったのに気づいたのもそのとき。 足を踏み外した。 このまま落ちて死んだらどうなるだろう、少しだけ考えた。 「――中尉っ!」 力強い腕が体を支えた。きつく、掴むように回された腕は、到底解けない。おかげで落下しなくてすんだけれど。 「・・・・・・大佐?」 唇が震えた。 このまま落ちても良かったなんて、少しでも感じたことに怒りが込み上げる。 「大丈夫か?」 「はい。・・・すみません」 「いや、君が無事ならいいさ」 「よく気づきましたね」 「あー、まあ・・・君が、何かよろしくない誤解をしているようだったから」 「誤解?」 ロイの顔が見えない。それは良かったのかもしれない。きっともし、見えていたら。きっと泣きそうになった。 「明日は、君と一緒にいたかったんだ」 それだけだ。とロイは言う。背中に感じる彼のぬくもり。 どうせこれも女を落とす時の常套句じゃないか。 そう思ってしまう自分は、ずいぶんな恥知らずだ。 「私がいなくなったら、悲しいですか?」 ここにいられなくなったとき、彼が少しでも悲しんでくれたら。ほんの少しの絶望を、与えることができたなら。 「私が、君を失う?」 ロイが呆然と呟く。その手はリザの体を支えたままだ。 「そんなことはありえない」 強い言葉だった。決意に似た断言。 「そんなことはさせない」 衝動的に、リザはロイの首に手を回す。ロイは、その柔らかい体を抱き返した。 掴んだ手を、離さない。 |
*POSTSCRIPT* はい、34343hitの時雨さんからのリクで転びそうになった中尉を大佐が見事にナイスキャッチ☆ 今回から「ホークアイ」をやめて「リザ」にしました。だってオフィシャルになったもんな。今までのやつって中尉の名前公表される前のだから全部ホークアイで、だから直すのが面倒でそのまま放っておいちゃったんですけど(死)新しいのくらい直そうよキャンペーン、ってことで(ひーわけわかんない) 転ぶっていうか落ちてますけどこんなのでよかったらどうぞもらってやってくださいな。 では、34343hitありがとうございました! |
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