そして奴はにやりと笑う




 憎たらしい。
 まったく憎たらしく嫌味なことに、奴はにやりと笑った。
 イタズラが成功したときの子供のような、そんな顔で。



 ええそうですかそうですね。俺が間違ってましたよこん畜生。
「やはりそうか。そうだと思っていたんだ」
 そう思ってるのは多分あんただけですよ。
「まあ私も咎めるほどの事ではないと思っているがね。しかしそれを隠すというのはいただけない」
 奴はいただけないなどとは欠片も思っていなさそうな表情で言う。そう、つまりはにやにやと笑って。
「というわけで、今月いっぱいは残業。朝から夜まで馬車馬の如く働きたまえ」
 そんな横暴な!
 ……とか言ったらまた文句があるのかと余計に不条理な目に合わされるに違いない。
「これも罰則だ。ハボック少尉」
 誰かこのクソ上司に罰則でもなんでも与えてくれ。左遷でもしてしまえ。
 ああムカツク。

 これ以上にストレスの溜まる職場はないと思う。
 確かに自分より一つ上の階級である女性将校――しかも奴の補佐官だ――は美人で、意外と優しい。誤解されやすい人ではあるが、あれほどまでにまっすぐでキレイな人はいないと思う。
 恵まれているといえば恵まれている。その点のみで。
 それ以外には無いのだ。最悪じゃないか。
 しかし、少尉という階級にまでのし上がり、その女性将校の身近にいられる機会までもを自ら消し去ってしまうなどということは到底できない。いや絶対にできない。
 最悪だ。
 誰でもいい、誰かあの男をとりあえずこの場から離れさせてくれないだろうか。
 今しばらくの心の平安のために。

 そもそもアレだ。
 残業中のデスクで考える。
 俺がこんなことをする羽目になったのは中尉の仕事をいくつか代わりにやったことに起因する。しかもそれは大佐が仕事をサボりつづけたおかげで中尉がそちらにかかりきりになってしまい、自分の仕事に取り掛かれなくなってしまったのだ。
 それを代わりにやった。頼まれたわけではなく、進んで。
 確かにいい所を見せたかったという欲はあった。それは認めよう。彼女も悪いとは思いつつも感謝してくれた。それは嬉しかった。
 それを知っていながら俺に罰則を与えたのはあのクソ大佐だ。
 そもそもそんなことをする羽目になったのだって大佐がサボりすぎたのが原因で――
 ……何だよ俺悪くねえじゃん。
「ハボック少尉」
「ホークアイ中尉。どうかしたんスか?」
「大佐がまたバカなことを言い出したそうね」
 ええ実にバカなことなんですよ。信じられないくらい。
「いやまあ……はい」
 否定する要素皆無ですよ大佐。
「もう帰っていいわ。ごめんなさいね。大佐には私から言っておくから」
 上司に説教できる部下なんて軍部内でも彼女だけだろう。それはこの二人の絆を見せ付けられているようで嫌だった。



 きっと明日、奴はにやりと笑うだろう。
 恐ろしく嫌味に笑うだろう。
 かまってもらいたいだけのクソガキのくせに。
 彼女との仲を俺に見せ付けたいがためだけに。
 奴はにやりと笑うだろう。

 




 




 *POSTSCRIPT*
 少尉かっこいい―――――!!!
 最近少尉のかっこよさを噛みしめ中です。さすがは理性の人です。かっこよすぎです。ていうか外伝の少尉はかっこいいっつーよりはかわいかった。うん。
 あああたしロイアイじゃなかったのかよくらいに少尉好きです。大佐も好きだけど。中尉も大好きだけど。少尉も好きなのさあっ!
 軍部ラブ!




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