停滞と衝動




 尽くすタイプの男ではないということは最初から分かりすぎるほど分かっていた。
 初対面の態度が最早そうだった。自分がモテることを理解した言動。初対面で正面にいる女に向かって『気を悪くした』と言える少々の横柄さ。
 女の子にはモテても自分から人を好きになることは今まであまりなかったのではないかと聡子は踏んでいる。
 冬原春臣という男は。


「メール下手はこのせいかな」
 最近めっきり独り言が増えた。困った話だ。以前から少なかったとは言えないけれど、今の彼と付き合い始めてからは特に。
 結局日ごろ家に居るときの会話の少なさが原因で、今まで彼氏に依っていた分が突然消えたせいである。
 仕方がないと言い切るには辛すぎる。けれど彼のことが好きで好きでどうしようもないのでこの状況を止めるという選択肢はない。それはイコールお別れだ。
「あー…会いたいなあ」
 ベッドに寝転がって携帯をいじる。今日もメールは来ていない。もちろん電話がかかってくるはずもない。けれどいつもの習慣で、自分からはメールを送る。
 他愛もないことをだらだらと。それが一緒にいて一番楽しいことだったから。
 それから彼のことを考える。人当たりは良くてソツがなくて、器用だけど実は頑固でとんでもない負けず嫌いで時々皮肉屋。自分の顔がいいことを理解した振る舞い。けれど一度懐に入れた人間は大事にする。とてもとても大事にする。考えてみたら意外と厄介な男だ。けれど、聡子はその懐の内にいるはずなので大事にされている、はずだ。
「メールは三行だけど」
 以前は不安になることが多かったけれど、それは冬原が聡子に気を使った結果なのだ。
 最近はそうでもなくなった。聡子の前でだけは弱味も見せるし要求もする。それでやっと冬原の気持ちがわかるようになってきたので、今はそれがとても心地好い。
 メールを送信し終えて携帯を放り出す。シャワーでも浴びて気持ちを切り替えることにする。これ以上考えても余計会いたくなるだけだ。


 尽くすタイプの男ではないということは最初から分かりすぎるほど分かっていた。
 だから今の聡子の立場は実は破格なのだということも理解できている。不安はあるけど不満はない。
 お風呂に入って出てくると携帯に着信があった。冬原からだ。
「なんてタイミングの悪い…」
 悔しくて涙が出そう。すぐにかけ直そうとしたけれど留守電が入っていることに気付いて、まずそちらを聞く。
『聡子?ごめん、なかなか連絡できなくて。メール来たから電話出れるかなと思ってかけてみたけど残念だったな。またメール送るよ。じゃあ、また。――愛してるよ』
 尽くすタイプの男じゃないくせに。聡子のために言葉を尽くすことは厭わないのだ。躊躇いなく愛してると言ってしまうからタチが悪い。
「バカだ!絶対バカ!」
 顔が火照るように熱いのはお風呂上がりなせいだけではない。
 コール音が一回、二回。
「言い逃げなんて絶対許さないから」
 言われるだけでも嬉しいけれど応えてもらえたらもっと嬉しいのだ。知っているなら尽くさねば。聡子は尽くすタイプなのだ。今までそう思ったことはないけれど、状況を見れば絶対にそう。
 三回目のコールで電話が繋がる。あたしも愛してる。言えばそれだけで彼はきっと嬉しそうに笑う。













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