繋いだ指を切り落とし 迅速に、確実に実行しなければならない。 「まったく、君には驚かされる」 「それはどうも」 ロイは瓦礫の中を突き進みながら言う。後ろに控えるリザを振り向こうとはしない。 「こんなところまで来るとは」 「ここも戦場です。私は軍人ですから、不自然なことはありません」 まあ確かに不自然ではないが。ロイは顔をしかめる。 「しかしここは最も危険な区域だろうが」 「そんな最も危険な区域にどうしてお一人でいらしたんですか」 そこを突かれると痛かった。当初はこれが最善策だったのだ。すべてに一瞬で片が付く。それは便利というよりも楽だった。誰も守らなくて済むからだ。死ぬときも一人で済む。いくら止められようと泣かれようとこのスタンスばかりは変えるつもりはなかった。 「君は帰れ。ここは一人でいい」 「帰りません」 「上官命令だ」 「逆らいます。どうぞ軍法会議にかけるなり何なりなさってください」 「このくらいのことで会議にかけられるわけなかろう」 「立派な命令違反です。軍の規律を守るためならば何の問題もありません」 瓦礫は今にも崩れそうなほどだった。けれどその上を危なげなくロイは歩く。そしてリザも。 「貴方が一人で向かい、もしものことがあって亡くなられたら私は悔やんでも悔やみきれません」 「思ってくれる部下が一人でもいて嬉しいよ。やはり中央に帰ったらまずは君とデートだな」 「ヒューズ大尉も同じだと思いますよ」 「男とデートする趣味はあいにく持ち合わせていない」 「では三人でデートですね」 「…面白くない」 「それは何より」 二人きりの戦場では無駄話をするしかなかった。もうすでにここは一度燃やした場所だ。これから焔をつけに行くところはまだ先だ。 地平線が見える。夕焼けには程遠い。 「…イシュバールの夕焼けは赤い。焔とどちらが赤いかと、いつも思う」 リザは無言でロイに続く。不安定な瓦礫は一度焔に晒されたため、非常にもろかった。ひびが入った瓦礫をわざと踏みつけて行く。 「これからも毎日これが続く。君はそれについてくるつもりか?」 「ええ」 ひびの入った瓦礫がぴしりと音を立てる。 「気をつけろ」 ロイはリザの手を取って引く。ほとんど力のこめられていなかった手は、いつでも離せるようになっていた。敵がいつ来ても大丈夫なように。もし彼が崩れ落ちてもすぐに離れられるように。けれどもしリザが崩れても彼は手を離したりしないのだろう。けして。 「ならば私は君を離さない。この先一生ついてくるつもりでいてくれ。私は行けるところまで行く」 行けるところまで。 手の届くところまで。 どんなに難しかろうが彼は手を伸ばすのだ。そして頂点にまでたどり着く。成り上がりの帝王になっても孤独な王にはけしてならない。それをリザは知っている。彼女がいなくなっても、誰がいなくなっても、けしてロイは一人にはならない。一人にはしない。 「…はい」 答えに躊躇い無い。もしも彼が手を離そうとしなかったらこの指を切り落とせばいいのだから。 リザはロイの手を握り返した。少しだけ力をこめて。 |
*POSTSCRIPT* なんだか書いてる途中でわけわからなくなったのですけども。とりあえずイシュバール過去捏造で。 |
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