我らが陰謀



 悪徳を孕む肉体。
 交錯する声。
 虚ろう焔。


「国家錬金術師を登用してはどうか」
 そう言いだしたのは誰であったか。
 その一言が引き金となり、イシュバール殲滅戦は始まったと言っても過言ではない。
 その話を聞いたとき、チャンスだと確信した。
 国家錬金術師の資格を取得し、少佐相当の地位を得ているとはいえ、まだ一軍人に過ぎなかったころ、出世と名を売るためには絶好の機会だった。
 そしてより多くのイシュバール人を殺し、この錬金術という能力が役に立つということをこの身で実証してみせた結果、予想以上に高い評価を得ることができた。
 それからはまさに成り上がり人生だ。
 蔑まれようが、どれだけ人を殺そうが、陥れようが関係無い。のし上がり、大総統になる。その後の事は二の次だ。
 成り上がり大いに結構。
 非道?卑屈?それがどうした。
 なりふりなどかまっていられるか。
 自らの野望を、約束を果たすためなら――手段は、選ばない。


「私は大総統になる」
「・・・わたしにどうしろと?」
「ついてきてくれるだろう」
 彼女は押し黙ったまま目を閉じる。
「約束する。もう二度とこんなことは起こさせない」
「知ってます」
「だから・・・」
「貴方の補佐を、わたし以外の誰ができるんですか?」
 守ろうと、決めた。


 戦場に出ると、必ずと言っていいほどイシュバールを思い出す。
 自分のまさしく転機の場だったからかもしれない。ただ単純に、最も印象深かった戦いだったからかもしれない。
 目を開ける。
 はためく軍旗。
 信用できぬ味方の群れ。
 純粋なる黒い肌の仇敵諸君。
 悪徳に満ちた肉体。
 弱さと脆さ。
 交錯する声。
 うつろう焔。
 いつでも、この自らの生み出す焔がまわりを取り巻いていた。
 今 は 違 う。
「作戦は計画の通りだ」
「全軍戦闘準備整いました」
「――攻めるぞ」
 粉塵が舞う。
 銃声が轟いた。
 今にも発砲しようとしている敵の一人に狙いを定め、発火布を擦ると、火花が散った。その火花は酸素を吸い込み焔と化す。
「大佐調子良さそうっスねー」
「軽口を叩くな。戦え」
「へーい」
「速やかな鎮圧が第一条件だ」
 圧倒的な勢力差から、おそらくすぐに勝負はつくだろう。ハボックの一人や二人サボった所で特に支障はない。
 しかし、速やかな鎮圧は必要不可欠だ。
「大佐!」
「どうした中尉」
「過激派の指導者が参戦しているという情報が入りました!」
「ほう。丁度いいな」
 ここで指導者を一人捕らえるだけでこれからの展開がまったく違ってくる。
 その意味を的確に読み取ったらしいホークアイは、軽く頷く。
「わかりました。指示を――」
「ああ、あと、餌は生餌が一番だ。そう思わんかね?」
 生きたまま捕らえればそれだけ利用価値がある。
「・・・悪趣味ですね」
「よく言われるよ」
 そう言って笑おうとした、そのとき。彼女の背後に光を見た。あれは、紛れもなく銃口の照り返し。
「大佐?どうし・・・」
 何かを考える暇さえなく、ロイはホークアイを抱きこんだ。
「大っ・・・」
 発火布を擦る。
 間に合え。
 発砲されたら弾の火薬に引火して爆発が起こるかもしれない。それは自軍をも巻き込みかねない。
 間に合え。
 間に合え間に合え。

 焔が散った。



「で、どうなさるおつもりですか?」
「・・・ああ」
「大佐、しっかりしてください」
「・・・中尉、私は自分の間抜けさにほとほと呆れ返っているよ」
「当たり前です」
 戦場から場所を映して、ここは東方司令部執務室。
 あの後すぐに戦いは鎮圧した。いや、否応無く鎮圧してしまったというのが正しいか。
「失礼しまーす。あ、大佐これ捕虜のリストです。それにしても大変っすね。まさか指導者ついつい焼き殺しちゃったなんて・・・」
「ハボック少尉」
 ホークアイがにっこりと笑う。はっきり言ってかなり怖い。
「仕事、まだあるでしょ?」
「・・・失礼しましたー」
 扉が閉じられるのを待って、ホークアイは溜息をつく。
「どうするんですか?これで聞き出すはずだった情報はすべておじゃんですよ」
「どうもこうもないだろう。もういないものは仕方がない」
「・・・今回についてはわたしも強いことは言えませんので、どうぞ一人で反省なさってください。それから今後の対策とハクロ将軍からの嫌味もお任せします」
「・・・最後のだけ代わってくれないか」
「嫌です」
 ホークアイは後始末のため執務室を出ていった。
 まったく、情けない。夢中でついつい手加減さえできなかったとは。焔の錬金術師が聞いて呆れる。


 悪徳を孕む肉塊。
 交錯する声。
 虚ろう焔。


 これ以上戦場で何かを失うわけにはいかなかった。





 




 *POSTSCRIPT*
 28000hitゲットの神霧みつきさんのリクで戦闘中の大佐。中尉とかかばっちゃったりしてロイアイ風味。
 これ戦闘中ですか?
 ・・・・・・・・迫力ねえー動きもねえよーいいのかこれ。でもがんばった、うんがんばったよ!
 ではでは、こんなのでよろしければどうぞもらってやってくださいな。
 28000hitありがとうございました!!  



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