BLOODHOUND




 私はただ貴方に従い貴方を守るしか術を知らないのです。

 生温い湿気と熱気が首筋にまとわりつく。
 機構なのだから仕方がないとはいえ、途方もなく不快な気分にさせられる。
 夜のぬかるみに身を浸していると、どうにも思考がネガティブになるのは仕方も仕方がないのかもしれない。それもきっと不快の原因だ。
 リザは隣で静かに眠る男の鼻に手を当てる。
 呼吸をしているかどうかこちらが不安になるほど、静かに眠る人だから。
 今ここで、確かな呼吸が欲しい。確かな熱確かな感触確かな生。
 毎日を全力疾走して、そのためにたくさんの物を失った。覚悟はしていても忘れはしない。例えばこの身体も無くなってしまうかもしれない、そう思うとぞっとした。けれど間違いないのだ。彼はここにいる。
 リザはロイに息があるのを確認して、手を離した。
 この瞬間が永遠だったらと思ったことがある。
 今は常に思う。
 目を覚ましてしまうのではなかった。酷く後悔した。何が何でも、無理矢理に眠っていれば良かった。そうすればせめて朝までは静かに、安らかにいられる。
 先のことなんて考えずとも良い。
 先のこと。
 ぞっとした。
 リザは眠っているロイの肩にすがりつく。けれど彼はけして起きない。
 これでいいのだ。これでいいのだ。これで。
 彼のことをすべて知ろうとも思わない。知らなくてもいいのだ。ただ、ただいつまでも満たされないだけ。
 きっと何度体を重ねてもそれは同じことだ。
 だからといってこのまま彼についていって何か保障があるのか。それすらない。ただ、共に在れるだけ。
 危険でも安全でもかまわない。すべて無くしてもそれこそ本望だ。
 リザはロイの頬に手をすべらせる。
 このまま眠っていて。安らかに、健やかに。
 カーテンの隙間からは細かな雨音。
 雨は嫌いだ。彼が嫌いだから。
 暗い部屋の中でかろうじて判別できる触り慣れた輪郭。
 触れたいと思った。唇に触れたい。
 唇ほどに触れたくなる場所はそう無い。どこもかしこも固いのに唇ばかりは柔らかいだなんて。
 彼の睫が震えるのを見て、リザはロイの瞼にくちづける。
 それから額、そして唇。
 貪るように、ひたすらにくちづける。まるでそれが義務のように。
 何があってもここを離れたくないと思った。
 この先にどんなことがあっても、どんなに痛々しい雨が降り注いだとしても、そのすべてから守りたいと思った。
 この手で必ず、どんなことがあっても。
 貴方のために狗になりましょう。貴方に害なす物を排除する、冷徹な狗に。
 リザは唇を離すと、窓の外を見た。
 闇に降るは生温い雨。
 彼は起きない。


 どうか。
 どうか傍に。
   



 




 *POSTSCRIPT*
 68000hit獲得の長谷川 有紀さんからのリクエストで椎名林檎の曲に副ったロイアイ小説ー。
 はい、なんかもうね、どこが!と言われても甘んじて受けます。ほんとだよ、どこがだよ・・・
 いや違うんですよがんばったんですよこれでも。曲選びにまずすごい手間取ったんですよこれがまたもう。「闇に降る雨」は個人的に中尉ソングなんですけどもそれじゃあ面白味ないよね!とか思って何にしようかと悩む悩む。ていうか文章より曲で悩むってそれどうなの。それでまあ結局「闇に降る雨」にしたんですけども。ていうか何この時間経過・・・ああもう自分待たせすぎでしょうよちょっとー・・・(死)
 好きだからこそ雰囲気を壊したらならぬととても難しかったです。どうにも自分で考えてぱーっと書くのが性にあってるらしいですよ。いやー、歌詞を使って書くことの大変さに気づいた。難しいもんですよ。
 そ、そんなわけでこんなものでもいいのでしょうか・・・うわーちょっと不安・・・

 68000hitありがとうございました!



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