野性の本能



 射抜く

 射抜く瞳



 彼が自分の正義を全うするとき、あの瞳は相手を捕らえて放さない。
 


 もしも今ここで、あたしが罪を犯したら彼はどうするだろう。
 恩田すみれは考えた。 
 泣くだろうか、困るだろうか。他の犯罪者と同じように、あの厳しい瞳に取り殺されてしまうだろうか。
「青島君は迷うことある?」
 唐突な質問に、青島は目を見張った。
「はい?」
「だから、迷うこと」
 くわえていた煙草を灰皿に落として、彼は言う。
「そりゃあるよ。刑事である前に俺も人間ですから」
「犯人捕まえるときは?」
「あー…迷ってたら逃げられちゃうねえ」
 何、すみれさんは迷うの?
 彼はそうやって非難するかのような眼差しをすみれに向ける。
「あたしは迷わないわよ。迷いたくないわ」
「俺もそれがいい」
 そう言えるようになりたい。
 
 彼はちっともわかっていない。
 言えるどころか、それをまさしく実行に移しているじゃないか。

 彼はちっともわかっていない。
 同僚とはいえ係が違うから、同じ犯人を追うことはあまり無いけれど、たまに見る犯罪者に向けられる瞳を切望している女がいること。

「それにしても」
 青島は二本目のタバコを箱から出している。書類書き最中の小さな贅沢。本来は許されないことだとわかっているのかいないのか。
「どしたの急に?」
「何がよ」
「迷うとか何とか。すみれさん悩みでもあるの?」
 タバコの煙が上空に舞う。
「――あるわよ」
「俺なんかでよければ相談に乗るよ?」
「じゃあ言わせてもらうわ」
 犯罪者になる代わりに、あたしのこと好きになって。
 そう言ったら彼は一体どうするだろう。

「空き地署の問題児は刑事課が禁煙っていうこと知らないのかしら」

 背後が絶句するのがわかった。
「昨日帰ってから気づいたんだけど、コートにタバコの匂いがバッチリ移っちゃって大変だったのよねえ」
「……すいません」
「いいえ、いいわよぉ。今日のディナーは何にしようかなー」
 はあ、と後ろで溜息。
 溜息を吐きたいのはこっちの方。
「……まだまだだわね」
「は?何が?」
「こっちの話」

 こんな会話じゃ見られない。
 言ってしまえばよかった。

 犯罪者にはならないから、あたしの傍から消えないで。

 射抜く
 射抜く瞳

 あれはもはや野生だ
 
 その野蛮な色をした激しい眼差しに
 囚われて
 苦しんで
 それでも離せない
 離したくない

 ねえ、あなたあたしのモノになって

 それはきっと、野生の本能




 





 *POSTSCRIPT*
 踊る大捜査線はじめました。ってことで第一弾青すみ小説です。
 このすみれさんはちょっとどころかかなりニセモノ入ってますけど。
 まあそういうのもいいかなとか思ったり。



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