汚れたいだけ




 きれいなものがすき
 きれいなものがすき
 きたないものはきらい
 だけど僕はただきたないだけだから

 虚飾が必要だ
(さあ早くしまいこんでしまえ。ベッドの下に、クローゼットの中に!)
 目隠しも要る
(急げ、急げ!誰にも見られちゃならない。物置の奥底に、戸棚の裏側に!)
 隠して、探して、全部隠して。
 きれいなもので姿を囲めばきっと誰にも気付かれない。きっと誰も恐れない。
 臆病なんて気付かせない。
 涙なんて誰にも見せない。
 きたないものにはすべて蓋をしてしまえ。

 きたないものはきらい
 きたないものはきらい
 きれいなものはすき

 出会えたことが奇跡だと信じることができた君にだけは、絶対に。
(見られてはいけない)

「ハウル」

 目覚めた瞬間、思わずあわてて起き上がる。
 息切れがした。取り戻したばかりの心臓は、破裂するんじゃないかと心配になるくらい激しく脈打っていた。
「ハウル…?」
 控え目なソフィーの声にようやく我を取り戻す。
 考えるな。忘れてしまえ。あんなのはすべてただの夢だ。
「ソフィー…おはよう」
「ハウル、ひどくうなされていたみたいだけど大丈夫なの?顔色も悪いみたい…」
「大丈夫だよ。ちょっと嫌な夢を見ただけ」
 ハウルは瞬きをしてソフィーの額にキスをする。
「ねえハウル、本当のことを教えて?私はあなたが心配なの」
「…ごめん。ほんとに何でもないんだ」
 ハウルはソフィーに体をすり寄せる。
「だからもう少しだけこうしてて?」
 ソフィーはいくらでも、と小さく呟くとハウルの体に腕を回した。
 その腕は体は泣きたいくらいに暖かで柔らかで、きっと彼女はどんなに自分が汚い男だとしても離れたりしてくれないのだろうと確信させた。いっそ汚れてしまえれば楽なのにと思ったけれど、それで彼女が傷つくのは嫌だった。なんてことないわ、笑って見せられるのも嫌だった。



 




 *POSTSCRIPT*
 原作設定ではけしてできないシリアスさ。



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