欲望




 ああ、やめられない止まらない。
           

 やはり自分は少しおかしいかもしれない。
「マスタング大佐」
 こんな風に呼ばれて緊張したのは初めてだし。
「何かねホークアイ中尉」
 いつも通りのやり取りに心の中ではとても慌ててるなんて、今までなかった。
「私の顔に何かついていますか?」
「は?」
 そんなに見てたか……?
「さっきからずっと見ていらっしゃるので気になって」
「ああ、すまない。何かあるというわけじゃないんだ。気にしないでくれ」
「…そうですか?」
 そして彼女は自分の仕事に戻っていく。
 ここでバレたらどうしよう。自分の中のこんな醜い欲望に、彼女をさらしたくないとも思うけれど、我慢できるかいまいち不安だ。
 この状態で仕事。
 よりによって仕事。
 それはもう地獄でしかない。
「大佐」
 リザに再び呼ばれて顔を上げる。
「本当に、何もないんですか?」
 ついさっきのことだ。
 事件現場で、逃げようとした犯人に不覚にも突き飛ばされた彼女を庇って抱きとめた。珍しくも何ともないことだ。
 何故あんなに意識した?微かな香水の匂いに、頭の中が蕩けてしまいそうな気分になった。
 そのときから、気づくと彼女を見てしまう。それはもう自然に。髪をまとめているおかげで露になっているうなじ。人の目を見て話す癖があるため、とてもまっすぐに自分に届く強い瞳。
「ああ、なんでもない。第一私がサボるのはいつもの事だろう?」
「…そのいつもを変えてほしいと心から思います」
 誤魔化せた。多分。大丈夫……だと思う。
 机の上にある書類は少ない。今日はいつもより溜め込んでいないのだ。躊躇いながらも少しずつやっていたから。ため息をついて、書類に手を出す。一通り読んで、嫌になる。それでもついつい進めてしまうのだ。
 とりあえず今日は誰を誘おう?


 仕事が完全に終わった。
 この喜びを、今誰に伝えればいいのだろう。
 書類を確認する中尉の手が、最後の一枚で止まる。それを確認済みの書類の上に重ねて、一言。
「終わりです」
 この瞬間、思いっきり力が抜けた。
 ああ、これで解放される。
 信じてもいない神に感謝をしたいくらいだ。
 あとは今日付き合ってくれる女性を探すのみ。まさか彼女に手を出すのもなんとなく気がひけた。そうしたいのは山々なのだが。
 そう思いながらも、ロイの目はリザに向く。彼女はてきぱきと片づけをしている。ロイが終わったということは、彼女も仕事が終わったのだ。
「なんですか?」
 この問い掛けも、今日何度目だろう。
「いやなんでも」
 この受け答えも、何回も言っている気がする。
 要するに、自分は彼女と一緒にいたいのだ。どうしても。
 気づくが、付き合ってくれるかどうかというのはもはやただの賭けでしかない。潔癖でお堅い彼女の事だ。簡単におとせるはずがない。妙に真剣になって、緊張してしまう。今までこんなことはあっただろうか。
 やはり自分は少しおかしいのだ。
「大佐、言いたいことがあるならさっさと言ってください。気になってしょうがないので」
 口を開いた瞬間にそれはないんじゃないでしょうか。なんとなく何も言えない。
「いやあの……」
 ああ何をどもっているんだ。余計言いづらいし恥ずかしい。
 リザは、それに眉をひそめるわけでもなく、ただロイを見つめている。
 その真摯な瞳に惑わされる。
「今夜、食事でもどうだい?」
 もう少し気のきいたことを言おうかとも思ったが、今はこれが限界。
「いいですよ」
 けろっとした表情で彼女は言う。
「当然大佐のおごりですよね?」
 意外とちゃっかりしてるし。
「え……ほんとにいいのか?」
「断ってほしかったんですか?」
「いやそうじゃないそれは違う断じて違う」
 いやにはっきり否定してしまう。
「珍しいですね」
「何が?」
「笑って否定するかと思ったのに」
 妙に真剣なので。
「は、ははは、そうだな」
 焦る。焦ってしまう。何故こんなにも緊張して、堪えられなくなってしまうのか。彼女を抱きしめてしまいたいという欲望を必死で抑える。
 もうだめかもしれない。
「大佐、本当に大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫」
 大丈夫。だからやっぱり行かないとかだけは言わないで。
「ならいいですけど。あ、そうだ。今日大佐の家に行ってもいいですか?」
 ………………君は私に死ねと?今夜はずっと堪えてろと?
「別にかまわないが。何かあるのかね?」
 断れない自分に乾杯。
「ええ。少し聞きたいことが」
「ここじゃだめなのか?」
「はい」
 にっこり笑って彼女は言う。いつもはあまり笑わないので、これは希少価値。ここまで来てこれというのは、もはや犯罪に近いだろう。
「じゃあ着替えてきますね。門のところで待ち合わせましょう」
「ああ」


 自分が犯罪者になるのと、耐え切るのと、彼女が上手く逃げるのと。
 どれが一番早いだろう。
 




 




 *POSTSCRIPT*
 はい、36000hitのあんずさんからのリクエストでロイアイ小説。
 いやあなんつーかやめられない止まらないって書くと後にかっぱえびせんとつなぎたくなるのはあたしだけですか。
 世代的に通じないとか言われたらものっそいへこむんですけど。でもね、まあしょうがないっちゃしょうがないですよね・・・
 小説のことに触れてないよ自分(すごいダメ)

 では、36000hitありがとうございました!



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