零式カルマ




 初任務についたのは十代のときだった。けれどイシュバールには行っていない。当時の上司は一言、俺たちの出る幕はないと言った。さも悔しそうに、心の底から安堵して。
 ある日俺はついついそんな上司を殴りとばした。我ながら若かったと思う。親は泣いた。しかし後悔はしなかった。
 結局そこが分かれ目だったのだろうと、今なら思う。


 かくして左遷させられることになった俺は、誰もが嫌がる化け物軍団の内の一人の部下になることになった。
 化け物消費戦力の一員、なんてこった。謝れば今からでも間に合うかもしれない。が、謝るのも嫌だ。雑草にもプライドがあるのだ。
 しかしながら逡巡しているうちに時は過ぎ、いつの間にやら異動の日。
「はじめまして。ジャン・ハボック準尉ですね。リザ・ホークアイ。階級は少尉です。以後よろしく」
 着いた先で初めて会ったのは女性士官だった。見事なラッキーだ。階級からすると噂の化け物の副官にあたる。なんてうらやましい。ボインちゃんだ。なんてうらやましい!
 もしかしたら奴と俺の女の趣味は似ているのかもしれない。いやいやだからといって仲良くやっていけるという保証は…保証…
「中佐も間もなく来られると思います。今日は機嫌がいいので大丈夫ですよ」
 何がだ。
 一気に不安を煽るようなことを仰る上官殿だがそれはどうかと思う。大丈夫大丈夫ってそんな簡単な。
「あの、ホークアイ少尉。機嫌がいいとは具体的に――」
 そこまで言ったところでノックの音がした。これどう考えても。
「サリー、今日のご機嫌はいかがかな?」
 は?
 ホークアイ少尉は苦虫を噛みしめてしまったような顔をした。
「今夜も遊んでくれるんだろう?なに、仕事ならすぐに終わるさ。うちの副官は優秀すぎるくらい優秀だからね」
 甘ったるい男の声は更に言い募る。甘ったるいというか甘ったれだ。
「…どうしたんだいサリー…早くここを開けてくれ…」
 ホークアイ少尉のこめかみがひくひくと動いている。見事なまでににこやかだ。いっそただただ恐ろしい。
「サリー?あれ?」
 あれじゃねえよ。怖いんだよ。やばいやばい何か降臨してるってこれ!
「開けるぞ?」
 あ!待って待ってください開けないで!目の前で流血沙汰は勘弁してください!
 ホークアイ少尉はいつの間にか銃を取り出していた。ホルスターはから、シリンダーは好調。まずいなんてものじゃない。何事なのか知らないが、女でもここまで逆上していたら危ない。
 ガチャリとドアが開いた何もしないわけにはいかない。彼女の引き金を引こうとしている手をつかんだ!
「ホークアイ少尉!」
「…少尉?」
 結局噂の化け物ロイ・マスタングはかなり酷い状況下に踏み込んできた。
 俺は彼女の手首を掴み、まるで迫っているような格好だ。彼女は銃を取り落とした。結果オーライ!
「何だ貴様は!」
 火花が散った。一瞬だ。
 ホークアイ少尉は素早く俺の手を振りほどき、逃げた。
 何だこれ。
 俺は忘れていたのだ。この男、焔の錬金術師ロイ・マスタングは化け物だということを。
 意識を失いかける途中でホークアイ少尉がロイ・マスタング中佐をこっぴどく叱る声が聞こえた。
 ……痴話ケンカかよ。



 



 *POSTSCRIPT*
 バカバカしいですね。ええ。あの後中尉が大佐をこっぴどくしかりつけます。「どなたとお間違えになったんですか?」から始まって「だから無能なんです」まで。大佐はただ部屋間違えただけです。狙ってません。ただのアホです。



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