BREAKDOWN 彼女が誘いに乗る日というのは大抵何か余計なことを考えて思いつめている時だ。 長い付き合いのおかげでロイ・マスタングはそのことをよく知っていた。そして彼女が思いつめているときというのは大抵仕事のことや生活のことではなく、人間関係においてなのだ。 彼女は薄いカクテルグラスに注がれたギムレットをただ黙々と飲んでいる。一方彼女が飲みすぎるとどうなるか、不幸にも知っているロイはあまり飲むことができない。 結局のところ、誘い誘われておきながらとにかく――気まずかった。 「……どうして」 彼女――リザがようやく声を出す。店に入ってからすでに三十分、長かった。 「どうして私を誘ったんですか?」 「そうだな、君が誘って欲しそうだったから」 質問にすぐさま答えるとリザは一層不思議そうに、というよりもおかしなものを見るような目でロイを見た。 「その目は何だね」 「…申し訳ありません」 そう言うとリザはグラスの残りをすっかり空けてしまう。 そういえば彼女は飲みすぎて酔ってしまえばとんでもないが、酔うまでが長かった。しかし今夜のようなハイペースを間近で見ていたロイは、これは危ないと頭のどこかで危機を感じていたのだが―― 「責めてるわけではないさ」 ロイもグラスの中身を空ける。 「誘って欲しそうだったとは、どういうことでしょう」 彼女が発するのはいつも問いのようでそうでない。 「言葉の通りだ。私にはそう見えたのでね。そして誘ったら君はついてきた。これをどう考えるかね、ホークアイ中尉?」 「また、意地の悪いことを…」 「おやそう思ってくれる余地がまだあったとは嬉しいね」 自嘲気味に呟くロイにリザは溜息をつく。 「そろそろ行かないと」 「…もう?」 「ええ、明日の仕事に響きます」 酒を飲んで余計な考えを押し込めてしまうというのは賢いやり方なのかもしれない。彼女はそんなストレスと確かにうまく付き合っていたし、これは自分が口を出す問題ではない。たとえ部下とはいえ、彼女は一個人だ。そんな、もしかしたらプライベートにまで及ぶかもしれないことを。 だからその立ち上がろうとする腕を、思わず引きとめてしまったのはおそらく自分の弱さなのだ。 明日は休みじゃないんです、そう言いながらもリザはロイの自宅までのこのことついていった。 「君は一見真面目でしっかりしているが時折ひどく大雑把だ」 特にプライベートで、ロイは苛つきながら言う。 「…そうですか?」 「ああ」 休みじゃないんです、と言いながらついてくるなんて普段の彼女からは考えられないことだった。 『有能』の代名詞、射撃の天才、鉄の女――異名ならばいくつもある。そしてそれらすべては彼女自身の、仕事上の一部を表しただけのものにすぎなかった。 「けれど私をここに誘ったのは大佐、貴方です」 「あまりにうまく行き過ぎて自分でも驚いてるよ」 いつもだったら。 いつもだったら成功するはずなどなかったのだ。失敗の割合の方が確実に高い。おかげでいつもいつも無理を言って連れ込むか押しかけて―― 百戦錬磨を自負するロイ・マスタング相手にそんな記録を叩きだしているのは、今のところリザだけだ。 「…私としてはその理由が知りたいところだがね」 「理由?誘われたいと思っていたからではいけません?」 これは間違いなくさっきの反撃だ。いっそ攻撃的なまでの挑発。 「君酔ってるだろう」 「いいえ?」 信用できなかった。というよりも、信用したくなかった。 「リザ・ホークアイ」 フルネームを呼ばれて、リザは訝しげにロイを見る。 「何があった」 その問いには答えぬまま、リザはベッドに腰掛ける。 「リザ」 「……名前、呼ばないでください」 何度言っても彼はやめない。気を抜くとすぐにファーストネームでリザを呼ぶ。 それはとても不愉快だった。そんなことが本当にあってもいいのかと思わされるから。そんな風にしていられることがまるで罪悪のように感じるから。 「リザ」 ロイはやめない。きっとずっとやめるつもりはないのだろう。怖い人だ。 「大佐」 制止の意志をこめてみるけれどそれも無駄だった。 「何があった」 「何もありません。ですから」 苛ついた。どうにもならないとわかっているからこそ不快だった。 「君のそれはただの恐怖だろう」 ロイの言葉はいつも何かを見透かしているようで好きじゃない。 「何のことでしょう」 「おや、君はよくわかっていると思うがね」 「何をでしょうか」 今までロイはすべてわかっていて問うていたのだろうか。そんなはずはない。そんなはずはないのだ。 「それこそ君が一番よく知っていることだろう」 「大佐」 耳を塞いでしまいたかった。そして彼の口も塞いでしまいたかった。 「仰ってる意味がわかりかねます」 「では言い方を変えよう」 ロイはあっさり言い放つとジャケットを脱いだ。外から帰ってすぐにこんなやり取りをする羽目になるなんて無粋にも程がある。 「私には女性をベッドに連れこんでおいて堅苦しいやり取りをする趣味はない。弱音でも何でもいいからさっさと吐きたまえ」 ロイは一部正しかったけれど致命的に間違えていた。 「…弱音?」 弱音なんか吐けるはずがない。この人を、守るべき人を目の前にして。 「弱音なんかありません」 強いて言うなら言い訳だ。 「ただ、いつまでもこのままでいていいのかとは思います」 ロイは無言だ。ただ聞いている。 「こんな風にだらだらと肉体関係を続けていては、仕事には差し支えないと思いますけれど将来貴方が結婚するときにきっと引き離されるでしょう?私は貴方の傍にいたい。できる限りずっと」 彼はきっと政略結婚でもするだろう。そうしたら自分がずっと副官の地位に納まり続けることができるだろうか。答えは否だ。自分の夫の副官が彼と肉体関係のある女性だなんてそんなことはきっと許されない。 「君は――」 ロイが口を開く。 何を言われるのかと思うと正直恐ろしかった。 「そんなことを気にしていたのか?」 「大佐」 そんなこととはなんですか、リザは消え入りそうな声で言う。 「私は正直そんな先のことは考えていない。どうにでもなると楽観するつもりはないがね。しかし君はさすがに考えすぐだろう」 あっさりしすぎた、そして考えもなさすぎたロイの言葉にリザは思わず言葉を失う。 「このままだらだらと続けていていいのか。では今すぐやめるつもりだったのかね?」 「今日で…最後にしようと…」 「君に言っておく。私はそんなのはごめんだ」 ロイはリザの頭を引き寄せて抱き締める。 「私の意志はどうなる?君を抱きたいと、君しかいらないと思う私はどうすればいいんだ」 これが何かの冗談ならよかった。けれどロイの手はかすかに震えていて、リザは否応なく彼の思いを知ってしまう。 「…大佐」 「誰が何と言おうと、私が君を離さなければいい。それだけだ」 長い付き合いなのでよく知っていた。彼女は余計なことを考えすぎるのだ。 ロイは抱き寄せたリザの顎を持ち上げて噛み付くように口づける。 「んっ…」 欲求不満なんてものは通り越していた。この愛しく柔らかい体を手放す気はさらさらなかった。とりあえず今夜は。 唾液のぬめりが火照った体に心地良い。私服のスカートの裾から腿に手を這わすと、彼女の舌は逃げるようにちぢこまる。 「うん…んっ…」 ロイはリザの腰を空いた手で支える。絡む熱にリザの膝が震えていた。 首筋を舐め上げ、もどかしくスカートを捲り上げたところでリザがロイの二の腕を掴んだ。その時の縋るような彼女の目がただひたすらに愛しかったのでもう一度キスを―― しようとしたところで、電話が鳴った。 |
*POSTSCRIPT* いやほんとあたし何も考えないで小説書く人なんで話の筋も考えてないからこの先どうしようかなーとか思ってる最中だったりして…いやほんとすいません。 と、とりあえずこれは止めないよ!だって二十万打記念だからさ!完結させるよ! ええとちょっと内容に触れてみると、店に入って三十分も気まずい時間を過ごしてるこの人たちありえないよね(爆)それからロイロイがキモイ上に別人(あー)ていうかこれ電話のタイミング突っ込む直前くらいにしといたらすごいことになったからそれはそれでよかったかもなあとか思うんですけどもそれはロイロイが最高かわいそうなのでやめてあげました。 ええと内容に触れるっていうかツッコミでした。 |
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