軽快に喧しい電話のコール音に殺意を感じた。 どこの誰だこんなときに。せっかくここまできたんだ。合意に近い上にリザもその気だ。そんなことは実を言うと滅多にないというのに! ケンカを売っているとしか思えなかった。そして相手も誰にケンカを売っているかよくわかっていないらしい。ロイ・マスタング、地位は大佐。そして焔の錬金術師だ。 ああ、今ここで電話を灰にすることができたなら。 「大佐、電話が…」 「気にしなくていい」 ロイは手を進めることにする。そうだ、電話ごとき無視すればいい。 「けれど仕事の電話だったら…」 「関係無い」 ロイはリザの服を脱がせようとボタンに手をかける。 慣れた手つきに、ボタンはすっかり全開だ。 「無いわけないでしょう」 リザはロイの手を抑えた。彼女にしてみれば、ここで行為を進めるわけにもいかない。 「無いさ」 コール音はまだまだ続く。もしかしたら電話に出るまで切らないつもりかもしれない。 どうしてこんな焦らされ方をされなければいけないのだ。水を差されるのは好きではなかった。しかし彼女は出ろという。 「大佐」 こうなったら私が出ますがよろしいですか、くらいのことを言い出しそうだった。先ほどまでのしおらしさは一体どこに。 「…わかった」 さっさと話をつけた方が早いと思い直し、ロイは電話を取る。この最大のチャンスを邪魔するのは一体どこの誰だ。 「…もしもし」 苛立ちと怒りを抑えきれない。さぞ電話の向こうは怯むことだろう。 『あ、大佐ですか?ハボックですどうも』 燃やしてやろうかこいつ。 「何の用だ。用は無いな?切るぞ」 『何でですか!用はありますよ仕事です。武器輸送車が街道で襲撃を受けました。あと十分で来て下さい』 頭が痛い。何でこんなときにこんな厄介なことが。 「十分だと?もう少し引き伸ばせないのか。せめてあと二時間」 『バカ言わないでくださいよ』 「じゃあ一時間でいいから」 『だから無理ですって!中尉にも連絡とれなくて困ってるのに』 「何を言うそれがお前達の仕事だろう!」 『なんか違いますよそれ絶対!』 「違うわけ…」 あるか、言い返そうとしたところで受話器がするりと手から抜け落ちる。その受話器はリザが手にしていた。 「ごめんなさい、すぐ行くわ」 ああだから今を逃したらもうこんなチャンスきっと二度と。 『……中尉?』 「ええ。それまでに事件の詳細をまとめておいて」 相手の答えさえ聞かずにリザは電話を切って乱れた衣服を整える。十分は伊達じゃない。 「…中尉」 「寝言をほざかないでくださいね、大佐。仕事なんですから」 「だからといって君が出るのは」 「あれでは時間の無駄です。大丈夫でしょう、ハボック少尉ですから」 それではハボックが生殺しだろう、ロイは思う。彼はとことん女運がない。いっそ哀れなほどに。 「リザ」 ロイは立ち上がろうとするリザを背中から抱き締める。離したくなかった。 「…大佐」 リザは腹に回された腕に触れる。自分で無理に外そうとしてもこれでは無理だ。 「もう少し――もう少しだけ、何とかならないだろうか」 弱音も甘えも好きじゃない。彼はロマンチストだ。だからこそ、今すっかりそれを忘れきってしまっている。 「なりません」 「君のその凛々しいところが大好きだよ」 「それはどうも」 ロイは一向にリザを離そうとしない。もうすぐ五分経ってしまう。あと五分、車を飛ばせば間に合う。 「大佐、行きましょう」 「…行きたくない」 「…大佐」 「……わかったよ」 しぶしぶと、やたら名残惜しそうにロイはリザを離す。 「これからしばらく帰れないな」 「そうですね」 「やっぱりこれからできない分を先に…」 「大佐」 リザは常ならば見られないほどにこやかに微笑んでみせた。 「寝言をほざかないでください」 ロイはそろそろと差し出した手を凍りつかせた。 彼はよく知っている。彼女がこんな顔をするのはよほどいいことがあったときか怒っているときだ。
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*POSTSCRIPT* へい続き一丁。 電話の主は憐れなハボッ君でしたー。 このあとの彼の末路 1.消し炭 2.なんとか無事 3.大佐に泣かれる さあどれでしょう。なんかどれも微妙だな… ちなみにこれ電話がかかってきたのが突っ込む直前だったらとかあたしほざいてましたけどもそしたらやはり中尉は勝手にすぐ行くことにしちゃって大佐がこれどうすればいいのかね中尉って下半身指差してそしたら中尉は無言でトイレを目で示して大佐泣きながらトイレに行くとかいうのいいなあとか考えてました。 …あれ?こっちの方が面白い? |
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